吉川 純弘* Sumihiro YOSHIKAWA
寺畑 賢一* Kenichi TERAHATA
成田 敬治* Takaharu NARITA
*
荏原環境プラント㈱
「蕨戸田衛生センター」の基幹的設備改良工事を行い,2023年2月に竣工した。通常のごみ処理業務を継続しながら,停止期間が限られる共通系工事について十分な事前準備によって工事を完了させた。各炉の工事終了ごとに性能試験を実施し,全ての基準値を満足しつつ,基幹的設備改良工事前と比較し,施設から排出される二酸化炭素を各運転パターンで25%以上削減した。また,主項目である湿式有害ガス除去装置の撤去と付随する改良によって,環境負荷とランニングコストを削減することができた。
We carried out fundamental facility improvement work for Warabi Toda Sanitation Center, which was completed in February 2023. While continuing the normal waste disposal operations, the construction of the common system was completed with sufficient advance preparation for the limited shutdown period. Performance tests were conducted after the completion of each incinerator construction and the carbon dioxide emissions from the facility were reduced by more than 25 % in each operating pattern, compared to before the fundamental facility improvement work, while meeting all standards. In addition, the removal of the wet harmful gas removal device, which was the main issue, and the associated improvements reduced the environmental load and running costs.
Keywords: Improvement work, Fluidized-bed, Waste incinerator, Environmental load, Running cost, Carbon dioxide, Continuation of operations, Subsidy
2019年6月から2023年2月までの期間で蕨戸田衛生センター(埼玉県)の基幹的設備改良工事を行った(図1)。既存施設は1992年に荏原製作所が建設した発電設備及び粗大ごみ処理設備を備えたごみ処理施設であり,過去にダイオキシン類対策工事(1999年~2001年)及び延命化対策工事(2007年~2010年)を行ってきたが,竣工から26年を経過した施設の改良及び更なる延命化を目的として,二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金を利用した形で基幹的設備改良工事を行った。当該補助金を利用した事業は全国でも初めてであった。
図1 蕨戸田衛生センター
なお,2019年6月から2020年3月までの期間で二酸化炭素排出抑制対策事業費交付金を利用した形で,当社として初めて粗大ごみ処理施設の基幹的設備改良工事も実施している。
本施設は処理能力270t/d(90t/d×3炉)の流動床式のごみ焼却施設に30t/5hの粗大ごみ処理施設が含まれ,他にし尿処理施設,リサイクルプラザ及びリサイクルフラワーセンターが併設されている。
図2に施設全体図を示す。
図2 施設全体図
基幹的設備改良工事後のごみ焼却施設のフローシートを図3に,基幹的設備改良工事における主な工事内容を表1に示す。
図3 基幹改良後のごみ焼却施設フローシート
項目及び内容 | 補助金 対象 |
詳細(補助金対象の理由) | |
受入供給設備 | |||
ごみ投入クレーン トロリ,給電ケーブル更新 |
〇 | ケーブルリールをインバータ化 (場内使用電力削減) |
|
燃焼設備 | |||
給じん装置 駆動装置,掻取機,制御盤更新 |
〇 | 本体及び掻取機駆動装置をインバータ化 (場内使用電力削減) |
|
不燃物取出コンベヤ 本体,炉下シュート他更新 |
〇 | IE3モータ※を採用 (場内使用電力削減) |
|
燃焼ガス冷却設備 | |||
廃熱ボイラ スーパーヒータ―更新 |
× | ー | |
排ガス冷却器 1パス伝熱部,払落し装置,送風機電動機,制御盤更新 |
〇 | 排ガス冷却用送風機をインバータ化(場内使用電力削減) | |
高圧蒸気復水器 ファン,電動機,制御盤更新 |
〇 | ファンをインバータ化 (場内使用電力削減) |
|
排ガス処理設備 | |||
バグフィルタ 本体,ダクト,制御盤更新 |
〇 | ろ過面積増加による誘引送風機消費電力の削減 | |
払落し用コンプレッサ 本体更新 |
〇 | 容量削減及びインバータ化 (場内使用電力削減) |
|
活性炭吸着塔 本体更新 |
〇 | EDV装置撤去に伴い新設 | |
消石灰吹込み装置 部分更新 消石灰定量供給装置,輸送ブロワ,貯留槽バグ,制御盤更新 |
〇 | EDV装置撤去に伴い,乾式消石灰吹込み装置に部分更新 | |
給水設備 | |||
クーリングタワー (プラント用冷却塔) プラント用冷却塔ポンプ更新,配管の部分更新 |
〇 | 不要となるクーリングタワーを既設のプラント用冷却塔として流用 ファン電動機をインバータ化 (場内使用電力削減) |
|
排水処理設備 | |||
洗煙排水処理設備 (排水処理設備) |
〇 | EDV装置撤去に伴い不要な機器の撤去及び改造及び制御盤更新 (場内使用電力削減) |
|
通風設備 | |||
二次送風機 本体更新 |
〇 | 燃焼改善に伴い容量を見直し | |
誘引送風機 本体及び制御盤更新 排ガス再加熱器他の撤去を含む |
〇 | EDV装置撤去に伴い容量見直し 電源仕様を高圧から低圧に変更 インバータ化(場内使用電力削減) | |
煙突 内面耐火物を外部保温に改造 |
〇 | EDV装置撤去による排ガス条件の変更に伴い,内面耐火物を部分撤去し外部保温に変更。一部SUS板内張り,頂部径変更を含む。 | |
灰出設備 | |||
No.1不燃物移送コンベヤ 本体更新,インバータ盤新設 |
〇 | インバータ化 (場内使用電力削減) |
|
No.2~No.4灰コンベヤ 本体更新 |
〇 | 台数とレイアウトを見直し更新IE3モータ※を採用(場内使用電力削減) | |
No.1集合灰及び養生コンベヤ 本体更新 |
〇 | IE3モータ※を採用 (場内使用電力削減) |
|
電気設備 | |||
受変電設備 高圧盤本体更新 |
× | ー | |
高調波フィルタ盤 本体新設 |
〇 | インバータ化に伴う高調波対策 | |
低圧主幹盤 本体更新 |
× | ー | |
コントロールセンタ 本体更新 |
〇 | 各機器更新に伴う更新 | |
直流電源装置・無停電電源装置 本体更新 |
〇 | 一体型として消費電力を低減 (場内使用電力削減) |
|
計装設備 | |||
中央監視制御装置システム | 〇 | 燃焼改善,機器更新に伴う改造・更新 | |
中央監視盤プログラマブルコントローラ | 〇 |
※IE3モータ:プレミアム効率モータ
改良工事は,5 %以上の二酸化炭素を削減するため,湿式有害ガス除去装置(以下,「EDV装置」という)の撤去を主項目として,これに付随する装置の改良と合わせて場内使用電力を削減した。EDV装置の撤去に伴い懸念された排ガス中のダイオキシン類濃度の上昇については活性炭吸着塔を新設し,同じく塩化水素濃度の上昇については消石灰の乾式吹込み装置に部分更新することによって対応した。
EDV装置は排ガス中の有害物質を洗浄水に吸収し除去を行うため,洗浄水を供給・循環するポンプが複数必要であるが,この装置の撤去を行うことで場内使用電力を削減した。また,付随する設備や装置を改良することで,更なる場内使用電力の削減を行った。例えば,洗浄水や施設内の排水を処理する排水処理設備については,洗浄水の処理が不要になることから,設備規模を縮小し,排ガス系統については圧力損失が軽減されることから,誘引送風機の動力の見直しを行った。
EDV装置撤去に伴い,不要となったクーリングタワー3基の内1基をプラント用冷却塔として再利用した。老朽化した冷却塔を更新することなく不足していた能力を増強することができた。既設品を再利用することでリサイクルの観点からも貢献できたと考える。なお,電動機は更新の際,インバータ化し使用電力を削減している。
また,EDV装置の消石灰貯留槽は,既設での運用を継続しながら消石灰吹込み装置として再利用しなければならず,短期間での改造・更新に加え,一時的に改良前のスラリー噴霧と改良後の乾式噴霧を両立させる等,綿密な計画の下,設計,工事,運転が連携しながら取り組むことにより達成できた。
2019年11月の灰処理設備,受変電設備及び中央監視制御装置更新の共通系1期工事から始まり,各炉系の工事は約4ヵ月の短工期で行った。本工事はごみ処理業務を継続しながら行う必要があったため,全3炉のうち,2炉を稼働しながら,残る1炉の工事を行い,年度ごとに部分引渡しを行った。主な工事工程を表2に示す。
契約 | 2019年6月 |
共通系1期工事 | 2019年11月 |
部分引渡し | 2020年2月 |
A系工事 | 2020年3月~6月 |
予備性能及び性能試験 | 2020年7月 |
B系工事 | 2020年8月~12月 |
予備性能及び性能試験 | 2021年1月 |
部分引渡し | 2021年2月 |
C系工事 (クレーン及び排水処理設備を含む) | 2021年9月~2022年1月 |
予備性能及び性能試験 | 2022年2月 |
部分引渡し | 2022年2月 |
共通系2期工事 | 2022年3月~6月 |
総合性能試験 | 2022年6月~8月 |
竣工引渡し | 2023年2月 |
基幹的設備改良工事は,ごみ処理を継続しながら実施するため,共通系機器の工事は,何かしら周囲の制約を受けるとともに工期の短縮を要求される。
共通系1期工事の受変電設備他の更新では,仮設キュービクルを設置し,隣接するし尿処理施設及びリサイクル施設を停止させることなく工事を遂行,排水処理設備では事前に仮設系統を確保することで排水処理を継続しながら整備を実施した。
クーリングタワーは再利用,払落し用コンプレッサは設置場所を変更(インバータ化に伴う設置環境の改善)することで,既設機器の運転を継続しながら事前に機器や配管等を更新することができたため,停止期間を大幅に短縮できた。また,灰コンベヤについても,配置を見直し別ルートを確保することで,共通系停止期間を設けずに更新することができた。
これらの共通系工事に際しては事前に操業計画に基づく工期の設定から始まり,当該工事のみならず,補修工事との錯綜箇所の調整,屋外残業時の照明など作業環境の確保,併設施設における作業を把握するなどの綿密な準備を行うことによって,滞りなく期間中に工事と試運転を完了することができた。
過去の交付金案件では,年度ごとの顧客の完了検査は通常3月下旬に実施しており,今回工事の計画も3月下旬から逆算し工程を組んでいたが,補助金を利用することになったため,第三者機関による手続きの関係上,完了検査を2月末までに実施しなければならなくなった。このため,工事工程及び性能試験時期の調整と,報告書を短期間で作成する必要が生じたが,社外を含む関係者の努力によって,滞りなく完了検査を迎え,合格することができた。
改良工事後の運転状況について,以下に記す。
本工事では各炉の工事終了ごとに性能試験を行い,順に稼働を開始し,2022年8月に総合性能試験を終えた。表3に引渡性能試験時の主要な結果を示す。
項目 | 単位 | 判定 基準 |
結果 | ||
A系 | B系 | C系 | |||
焼却能力 | t/d | ≧ 81 | 86.27 | 84.22 | 84.65 |
排ガス | |||||
ばいじん濃度 | g/m3
(NTP) |
≦ 0.03 | 0.012 | < 0.001 | < 0.001 |
硫黄酸化物 | ppm | ≦ 30 | <1 | <1 | <1 |
塩化水素 | ppm | ≦ 25 | 9.4 | 3.8 | 14 |
窒素酸化物 | ppm | ≦ 120 | 62 | 91 | 95 |
一酸化炭素 | ppm | ≦ 100 | 最小 9 最大 23 平均 17 |
最小 9 最大 31 平均 13 |
最小 28 最大 50 平均 38 |
ダイオキシン類 | ngTEQ/m3(NTP) | ≦ 1 | 0.000061 | 0.0000011 | 0.0000051 |
焼却残渣(飛灰処理物) | AB系 | AC系 | BC系 | ||
アルキル水銀 | mg/L | 不検出 | 検出せず | 検出せず | 検出せず |
水銀 | mg/L | ≦ 0.005 | < 0.0005 | < 0.0005 | < 0.0005 |
カドミウム | mg/L | ≦ 0.3 | < 0.001 | < 0.001 | < 0.001 |
鉛 | mg/L | ≦ 0.3 | 0.13 | 0.2 | < 0.01 |
六価クロム | mg/L | ≦ 1.5 | 0.08 | 0.09 | 0.1 |
ひ素 | mg/L | ≦ 0.3 | < 0.005 | < 0.005 | < 0.005 |
セレン | mg/L | ≦ 0.3 | 0.004 | < 0.001 | < 0.001 |
二酸化炭素削減率 | % | ≧ 5 | 32.1 | 27.5 | 31.7 |
全ての試験項目において基準値を満たし,安定して運転することができた。
本工事による二酸化炭素削減率は基幹的設備改良工事前と比較し,二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金の交付要件の5%を大きく上回り各運転パターンにおいて25%以上※を達成した。
なお,本工事期間内に実施した粗大ごみ処理施設の性能試験における二酸化炭素削減率も交付要件の3%を大きく上回り19.1%※であった。
※文献2)に則り算出
EDV装置の撤去に伴い懸念された排ガス中のダイオキシン類濃度の上昇については活性炭吸着塔の新設によって,各系列で改良工事前より低い値となっている(表4)。同じくHCl濃度の上昇については消石灰の乾式吹込み装置の新設によって,自主基準値の25ppmを問題なく遵守できている(表4)。
表4 基幹的設備改良工事前後の排ガス測定値
基幹的設備改良工事による場内使用電力の削減により,工事前後で約33.5%の消費電力量が削減された3)(図4)。
図4 基幹改良工事による消費電力量の変化<sup>3)</sup>
これにより表5に示すとおり,工事前後で売払い電力量は4倍弱増加し約40 000千円の増益,購入電力量は約1/2となり約10 000千円の削減となっている。
表5 基幹改良工事による売払い・購入電力量の変化
また,EDV装置撤去に伴い,排ガス洗浄水の排水処理設備経由での下水放流が不要になったため,表6に示すとおり改良工事前後で下水道使用量を33 900m3削減することができた。これは約45%の削減で,費用面でも約7 000千円の削減となっている。EDV装置の整備費についても年間40 000千円から50 000千円程度掛かっていたことから,改良工事後の整備費も削減されている。
表6 下水道使用量の比較
施設の延命化によって既存ストックを活用しながら,二酸化炭素排出量,電力量及び下水道使用量の削減などによって環境負荷とランニングコストを削減することができ,合わせて顧客満足度を向上することができたと考える。
本施設の基幹的設備改良工事は2023年2月に竣工し,順調に稼働している。竣工後も継続して当社が運転・維持管理業務を担っており,今後も業務を滞りなく行い,持続可能な社会の構築に貢献する所存である。
最後に,本工事の計画及び実施に当たり,多大なご指導・ご協力を頂いた蕨戸田衛生センター組合をはじめとする関係各位に深く感謝の意を表する。
1) 今泉隆司・山下秀夫ほか,新潟県新潟市「亀田清掃センター」基幹改良工事,エバラ時報,No.253,P.34-38(2017-4).
2) 環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課,廃棄物処理施設の基幹的設備改良マニュアル,平成31年3月改訂.
3) 蕨戸田衛生センター組合HP,(参照2023-06-07).
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