足立 昌則* Masanori ADACHI
岡本 秀伸** Hidenobu OKAMOTO
岡崎 貴志*** Takashi OKAZAKI
堀 崇志**** Takashi HORI
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マーケティング統括部 マーケティング推進部
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建築・産業カンパニー 開発統括部 海外事業開発部
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建築・産業カンパニー 企画管理統括部 企画管理部
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㈱荏原エリオット
荏原製作所では,開発・設計・メンテナンスのノウハウを総合的に活用することでユーザでは対応が難しい流体起因のトラブルへの対応が可能であり,状況に応じてユーザへのコンサルテーションを実施している。本稿では,ポンプの部分流量運転で発生したキャビテーション壊食のトラブルへのコンサルテーションの事例を紹介する。ポンプ内部流れを流れ解析によって評価し,インペラ入口に発生した逆流渦キャビテーションが原因であると推定した。解決方法としてインペラ入口の逆流を抑制することとし,インペラの入口径を調整して改善インペラを設計した。納入した改善インペラは1年の使用後でもキャビテーション壊食は発生せず,トラブルは解決された。
By comprehensively utilizing our expertise in development, design, and maintenance, we are able to address fluid-related issues that may be difficult for users to handle, and consultations are provided to users according to the situation. This paper introduces a case of consulting on cavitation erosion issues that occurred during the partial flow operation of a pump. The internal flow of the pump was evaluated by flow analysis, concluding that the backflow vortex cavitation that occurred at the impeller inlet was the cause. To address this issue, the inlet diameter of the impeller was adjusted to suppress the backflow at the impeller inlet, creating an improved impeller. The delivered improved impeller did not experience cavitation erosion even after one year of use, and the issue was resolved.
Keywords: Consultation, Retrofit, Computational fluid dynamics, 3D scan, Cavitation erosion, Backflow vortex cavitation,
Suppression of inlet backflow
荏原製作所のポンプは公共事業,産業プラント,ビル建設などさまざまな用途に使用されている。開発,設計,メンテナンスのノウハウを総合的に活用することで,ユーザでは対応が難しい流体起因のトラブルに対応が可能である。調査の段階から,当社メンテンナンス指導員,技術者を現場に派遣しユーザへのコンサルテーションを実施している。
本稿では,ガス吸収液に使用されるポンプの部分流量運転で発生したキャビテーショントラブルへのコンサルテーションを紹介する。概要は,運転条件ヒアリング,原因推定,3Dスキャニングおよび流路モデルの作成,流体解析による推定原因の確認,解決のためのレトロフィット部品の製造,1年後定期点検における検証である。
産業プラントの多くのユーザにおいては,ポンプは製造業者や各種規格で指定される最小流量と最大流量の間で使用すれば問題がないと認識されている。しかし,実際にはポンプ運転点が最高効率点(Best Efficiency Point:BEP)より離れたところで運転されると,水力エネルギーに変換されなかったエネルギーが故障を引き起こしやすくなる。
Barringer-Nelsonにより1),ポンプ運転点と,平均故障間隔(Mean Time Between Failure:MTBF)が図1のように示されている。特に小水量側,大水量側でキャビテーションの発生するポイントではMTBFが非常に低くなることが示されている。
図1 ポンプ運転範囲がBEPから外れた場合の信頼性への影響
BEPから大水量側でのMTBFが短くなる原因は,吸い込み速度上昇に伴う必要吸い込み水頭(Net Positive Suction Head Required:NPSHreq)の上昇の結果,有効吸い込み水頭(Net Positive Suction Head Available:NPSHav)が不足し,キャビテーションの発生,キャビテーションエロージョンによる部品などの破壊が発生する。
BEPから小水量側で運転する際は,ポンプ内部の循環による加熱での破損防止のため,メーカーで決められた最小水量以上で運転する必要がある。しかし,最小流量以上でもBEPより離れた運転点においては,インペラ吸い込み口でキャビテーションが発生した場合,吸い込み口で発生している逆流渦(吸い込まれなかった流体が,吸い込み口から出ていくことで発生)と相乗効果により部品の破損要因となることは一般にはあまり知られていない。
当社のサービスラインアップは,部品提供,部品修理,顧客点検へのフィールドサービスエンジニア派遣,コンサルテーションおよび解決策としての部品のレトロフィットである。本稿で紹介するレトロフィットサービスは当社ポンプだけでなく,他社ポンプへも適用が可能である。
開発の背景に,ポンプ性能に影響すると考えられる鋳造品の形状検査への適用を目的として,正確な3Dスキャン,スキャンできない部分の形状予想方法,スキャン結果から製作図面の製図,エンジニアの育成,国内外案件への適用を進めていたことがある。
部分流量で運転されるCO2吸収液を取り扱う2台のBB3ポンプ(ケーシング水平割多段ポンプ)において,毎年行われる定期検査で常に1段目インペラの翼に裏側より貫通する激しい壊食が認められた(図2)。その結果,毎年の分解点検と高額なインペラの交換コストが発生した。また,その時の運転状態を調査した結果を図3に示す。図3の使用範囲が図1のインペラの短寿命に相当すると考えられる。
図2 ポンプの構造と,破損した1段目インペラの写真
図3 ポンプのBEPと使用範囲の関係
壊食の原因を推定するために,まず流れ解析(Computational Fluid Dynamics:CFD)を実施してポ ンプ内部の流れ状態を把握した。壊食箇所は1段目インペラなので,2段目以降の下流側の流れは上流に影響を及ぼさないと考え,CFD範囲は1段目のみとした。実機の形状を反映させるためにインペラおよびケーシングの3Dスキャンを行い,ポンプ内部の3Dモデル(図4)を作成した。また,1段目は両吸い込み(面対称形)なので,解析負荷を低減するため,解析範囲を片側のみとした。CFD解析ソフトには,Ansys CFX Ver. 18.2を使用した。境界条件は実運転に合わせて回転数2 950 min-1,吸い込み圧力0.1 MPa,流量はポンプの最高効率流量の60 %に相当する324 m3/hに設定し,CFDを実施した。
図4 3Dスキャンにより実機形状を反映した解析形状
CFD結果からポンプの内部流れを可視化した結果の例を図5に示す。図5(a)はインペラ入り口断面の軸方向速度の正負を示す。流速が正(青色)の範囲では流れがインペラから吸い込み流路側(図5(a)の左側)に流れ出していることを示す。また,図5(b)はインペラ内部を起点とした流線を示す。インペラ入り口断面から吸い込み流路にはみ出した流線の範囲は入り口逆流の範囲を示している。図5(a)より,インペラ入り口断面の外周部ではかなりの範囲で軸方向速度が正となっており,規模の大きな入り口逆流が発生していることがわかる。
図5(b)の流線の本数も多いことから,オリジナルインペラではかなり強い入り口逆流が発生していることが明らかとなった。また,図5(c)に示す90 ℃水の飽和蒸気圧の等値面を可視化することで,キャビテーション発生の可能性について評価した。インペラ前縁の負圧面側近傍に記等値面が可視化されており,この近傍でのキャビテーションの発生が示唆される。図5より,オリジナルインペラでは,入り口逆流とキャビテーションが同時に発生していることがわかる。
図5 オリジナルインペラの内部流れの可視化:入り口逆流とキャビテーションの発生
一方,ターボ機械のキャビテーションに関してはこれまでに多くの研究が行われており,キャビテーション損傷についてもまとめられた資料が発行されている2)。表1は,前記資料内でまとめられているポンプのキャビテーション損傷の発生位置と発生するキャビテーションの種類を分類した表から,本事例の損傷位置(インペラの圧力面側)および内部流れ(入り口逆流およびキャビテーションの発生)に一致する損傷の種類を抜粋したものである。
表1 本事例に対応するキャビテーション損傷の発生位置とキャビテーションの種類
表1によると,低静圧部におけるキャビテーションの発生と低流量運転による入り口逆流の発生の2つの条件が合わさることによる逆流渦キャビテーションの発生により,キャビテーションが逆流渦に巻き込まれて逆流渦の他端が到達する隣の翼の圧力面で多くのキャビテーションが崩壊するときに発生する衝撃圧力にさらされることが壊食トラブルのメカニズムとして推察される。
図6 改善インペラの内部流れの可視化:入り口逆流は消滅
インペラの改造によってインペラの水力性能の特性が変わってしまうとポンプの仕様が変わってしまい,プラントの運転に支障をきたす可能性がある。インペラの水力性能はインペラ出口側の形状が支配的であり,入り口近傍の形状修正では水力性能はほとんど変化がないと推察したが,確認のためにオリジナルインペラ―と改善インペラに対して,プラントでのポンプの運転範囲である部分流量~最高効率点流量近傍に対してCFDによるインペラの水力性能を算出して比較した。その結果,インペラの水力性能に関してはオリジナルインペラと改善インペラで差が認められなかった。
上記の結果から部品のレトロフィットを提案し,改善インペラを製作してポンプへ組み込んだ。インペラ交換後の試運転にてポンプの水力性能が変化しないことを確認した。1年後の定期点検時にインペラ状態を確認した写真を図7に示す。インペラの圧力面にはキャビテーション壊食が全く発生しておらず,改善インペラの効果が確認できた。
図7 改善インペラの1年運転後の内部状態
本稿では,部分流量運転による渦逆流とキャビテーションによる壊食を,流体に関する知見,CFD技術を駆使し,部品のレトロフィットで解決した事例を紹介した。
当社のコンサルティングは,キャビテーション問題だけでなく,振動問題,腐食問題にも応用が可能である。ユーザでは解決が難しかった問題に対して,国内のユーザだけでなく,海外のユーザにも,採用頂いている。
1) Barringer, Paul. : API Pump Curve Practices from Variability About BEP, Private Weibull Analysis Course, Ref 2, p621
2) ターボ機械協会編:ポンプのキャビテーション損傷の予測と評価,TSJ G 001:2003,東京,日本工業出版(2003)
本原稿は「ペトロテック第45巻第12号(2022年)」に掲載した内容を転載した。
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