前田 毅* Tsuyoshi MAEDA
野地 崇寛* Takahiro NOJI
石渡 哲也* Tetsuya ISHIWATA
*
建築・産業カンパニー 開発統括部 海外事業開発部
北米市場向けの基幹製品として汚水汚物用水中ポンプDKEXU型を開発した。汚水汚物用水中ポンプは,取扱液に混入する異物がポンプに閉塞して動作できなくなる事例がある。また,カーボンニュートラル実現に向けて省エネルギー化製品の需要が高まっている。本製品は,後退翼羽根車・ガイドピン・吸込カバーの3要素から構成される非閉塞機構の搭載と,数値流体解析による設計により,高い非閉塞性と高効率の両立を実現した。更に,専用の冷却液を循環させることでモータの冷却を行うインターナル・クーリング・システム(ICS)を採用し,気中連続運転を可能にした。
The model DKEXU sewage submersible pump was developed as a core product for the North American market. In some cases, sewage submersible pumps can become inoperable if foreign matter gets mixed in with handled liquid and clogs the pump. Additionally, demand for energy-saving products is increasing in order to achieve carbon neutrality. This product has achieved both high anti-clogging and high efficiency by being equipped with an anti-clogging mechanism consisting of three parts: a back swept impeller, guide pin, and suction cover and design based on computational fluid dynamics. Furthermore, an internal cooling system (ICS) was adopted to cool the motor by circulating a special coolant, enabling continuous operation in air as well.
Keywords: Sewage submersible pump, Anti clogging, High efficiency, Energy saving, Back swept blade, Single blade, Internal cooling system, Explosion proof
建築設備や下水処理施設等で使用される汚水汚物用水中ポンプは,取扱液に時折混入する不織布等の異物がポンプ内部に流れ込み,ポンプが閉塞して動作できなくなる事例がある。また,カーボンニュートラル実現にむけて,ポンプ市場で省エネルギー化製品の需要が高まっている。
この度,当社は上記課題の解決や市場の需要を満たすべく北米市場で販売している従来型の後継機としてDKEXU型(図1)を開発した。DKEXU型ポンプは,当社に蓄積した技術を基に設計しており,ポンプの閉塞を防ぐ非閉塞機構を搭載し,従来型の運転範囲を網羅しながら高効率設計を実現した。
本稿では,北米市場向けのDKEXU型ポンプの特徴及び製品概要について紹介する。
図1 汚水汚物用水中ポンプDKEXU型
DKEXU型の製品仕様を表1に示す。
表1 DKEXU型の製品仕様
従来型では,ポンプ内部への詰まりを防止するために十分な内部流路を設け,ポンプ内部の流れで異物を排出する設計としていた。しかし,不織布や繊維物質など異物が多く流入するような過酷な環境下では,そのような従来型では閉塞してしまう場合があった。
DKEXU型(図2)は,より確実に異物を排出させるためにポンプ内部の流れに加えて,物理的に異物を取り除く非閉塞機構を搭載している。非閉塞機構は図3に示すように後退翼羽根車・ガイドピン・吸込カバーの3要素で構成される。
図2 構造図
図3 非閉塞機構
ポンプが吸い込んだ異物は,高速で回転している羽根車の前縁に絡みつく特性がある。その特性に対して,後退翼羽根車2)を採用することで,遠心力に逆らわずに異物を半径方向に移動させ,排出を容易にした。
前縁に引っかけた異物の排出をより確実にするためにガイドピンを採用した。ガイドピンは羽根車に対向するように配置されており,前縁に絡みついた異物を物理的に回収する役割を担う。
本ポンプの吸込カバーは,ケーシングの流路まで連通する溝を設けていることが特徴である。この溝はガイドピンで回収した異物をケーシング流路まで押し流す働きを担う。また,後退翼羽根車との隙間に生じる漏れ流れを抑制し,高効率化に寄与している。
上記の3要素によって,図4に示すように,後退翼羽根車で捉えた異物をガイドピンで回収し,吸込カバーに備えられた溝を介して排出することを可能としている。
図4 非閉塞機構による異物の挙動
異物通過性を評価するために異物通過試験を実施した。ポンプ運転中に供試体を連続的に吸い込ませ,通過個数から異物通過率を算出した。供試体には,実際にポンプ機場で閉塞の原因になっている不織布(縦279 mm×横242 mm)(図5)とロープ(φ4 mm,長さ900 mm) (図6)を使用した。図7に従来型とDKEXU型の異物通過率の比較を示す。DKEXU型の異物通過率は従来型と比較して,大幅に改善されていずれの供試体に対しても100 %の通過率を実現した。
図5 異物通過試験 不織布
図6 異物通過試験 ロープ
図7 異物通過率比較
また,大人用おむつ(図8)や標識ロープ(長さ1 500 mm)(図9)などに対しても試験を行い,同様の排出性能を確認した。
図8 異物通過試験 大人用おむつ
図9 異物通過試験 標識ロープ
本ポンプの特徴である後退翼羽根車の開発にあたり,CFD解析(CFD:Computational Fluid Dynamics 数値流体解析)を実施した。羽根車とケーシング形状による性能を確認し,所定の性能と効率を達成する最適なパラメータに設計した。図10に二枚翼形状の羽根車のCFD数値解析の例を示す。
図10 CFD数値解析の例
一例として,代表的な機種である口径100 mm/7.5 kW機種について,従来型とDKEXU型のポンプ効率と揚程の比較を示す(図11)。高効率設計によって,最高効率点近傍では揚程が約2.5 m増加し,最高効率は約15ポイント改善した。結果的に全機種の平均では,DKEXU型のポンプ効率は従来型比平均約10.1ポイントの効率向上を実現した。それによって,従来型と比較し,DKEXU型の選定チャートは拡大し,広い範囲のポンプ選定を可能とした(図12)。更に,DKEXU型はIE3モータを搭載していることによって総合効率は従来型比平均約11.9ポイント向上した。
図11 ポンプ効率比較
図12 DKEXU型 選定チャート
DKEXU型の特徴である後退翼羽根車において,小出力範囲では羽根車の外径が小さくなり,図10のような二枚翼の形状では,内部流路が著しく小さくなってしまう。非閉塞機構を搭載しても,異物は必ずポンプ内を通過するため,そのような小さい内部流路は異物の通過性を悪化させることが懸念された。そこで,後退翼羽根車をはじめとする非閉塞機構を搭載しながら,十分な内部流路を確保するために翼枚数を一枚とした後退一枚翼羽根車(図13)を開発した。(登録意匠第1733476号)
図13 後退一枚翼
DKEXU型にはモータの冷却を行うインターナル・クーリング・システム(ICS)を採用している。モータフレームの外周に水冷ジャケットを被せ,取扱液の異物が流入しない独立空間に,専用の冷却液を封入し,強制循環させる。これによって,モータ部が気中に露出した状態でも冷却できるため,気中連続運転が可能である。当該技術はDKEXU型よりも大出力(~110 kW)の汚水・廃水用ポンプであるDSC4型に採用しており3),DKEXU型の小出力範囲(1.5~45 kW)にも適用した。
爆発性雰囲気の発生が懸念される機場におけるポンプ導入に対しては,米国Factory Mutual Approvalsが認証する防爆規格に適合した製品も特殊仕様で対応可能である。
モータの異常温度上昇による焼損を防止するため,モータ巻線内に温度検知素子(サーマルプロテクタ)を埋設してある。巻線温度が異常上昇すると,サーマルプロテクタがそれを検知し外部に発報する。サーマルプロテクタは3相ある巻線の各相間にそれぞれ埋設されているため,欠相等が原因で特定の相だけが過熱した場合でも検知可能である。
メカニカルシールからモータ側に漏れが生じた場合にそれを検知し,モータ内への液の浸入による短絡や軸受破損を未然に防ぐための浸水検知器を備えている。浸水検知器はメカニカルシールとモータ部の間に設置されており,メカニカルシールの漏れを検知し外部へ発報する。浸水検知器は信頼性の高いフロート式を採用している。
軸受に生じた異常を早期に検知するため,下部軸受への温度計(測温抵抗体:RTD)の取付けも特殊仕様で対応可能である。
本製品は北米市場における各種要望に応え,当社における汚水汚物用水中ポンプの製品競争力を高めた製品である。今後は,DKEXU型を基に各地域の市場要求に合った製品へ展開していく。また,本製品の詳細説明動画はYouTubeに投稿している。https://www.youtube.com/watch?v=U_LS1eCuGGk
最後に,本開発に協力頂いた全ての関係者の方々に深く感謝の意を表する。
1) 汚水汚物用水中ポンプDL3型/DML3型,エバラ時報,No.257,p.28(2019-4).
2) 近藤範,海外市場向け汚水汚物水中ポンプDL型の範囲拡大,エバラ時報,No.202,p.19-22(2004-1).
3) 牧野力,汚水・廃水用水中ポンプ インターナル・クーリング・システム(ICS)の開発,エバラ時報,No.228,p.3-6(2010-7).
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