加藤 洸* Tsuyoshi KATO
五十嵐 忠大* Tadahiro IKARASHI
藤田 郁** Kaoru FUJITA
*
インフラカンパニー システム事業統括部 社会システム技術部
**
インフラカンパニー システム事業統括部 社会システム建設部
広島県福山市にある手城川排水機場の更なる排水能力の増強を目的とし,No.3主ポンプ設備の増設工事「手城川大規模特定河川工事(1工区)」を荏原・東洋プラントJVとして受注した。本工事で増設したポンプ設備の概要を説明するとともに,大型ポンプ(コンクリートケーシング)の製作・据付工事における課題とその対応について紹介する。
EBARA and Toyo Plant JV received an order for extension construction of the No. 3 main pump facility, titled “Teshirogawa large-scale specified river construction project (section 1)” to further enhance the drainage capacity of the Teshirogawa Drainage Pump Station located in Fukuyama City, Hiroshima Prefecture. This paper outlines the pump facilities installed in this project and introduces the challenges in the fabrication and installation work of large pumps (concrete casings), along with their respective solutions.
Keywords: Concrete casing, Vertical axial-flow pump, Reducer with fluid coupling, Diesel engine, Sacrificial anode
手城川は,広島県福山市東部を流れる二級河川で,市街地を流下して福山港に注いでいる。流域の大部分は海抜ゼロメートルの低平地となっており,河口部にある樋門は海水の侵入を防ぐために常時閉鎖されている。手城川排水機場(図1)はこの河口に位置しており,河川水を強制的に排水することを目的に2002年3月に完成した施設である。
図1 機場外観
近年は手城川流域においても局地的な大雨が発生し,手城川排水機場は更なる排水能力の増強が求められていた。このたび,既存のNo.2主ポンプ(口径3 600 mm立軸斜流ポンプ)に続くNo.3主ポンプ設備の増設工事「手城川大規模特定河川工事(1工区)」を荏原・東洋プラントJVとして受注した。近年では少ない大型ポンプ(コンクリートケーシング)の製作・据付工事を2020年3月から2023年1月にわたり行い,無事に広島県への引き渡しを完了した。ここに本工事で納入した設備の概要を紹介する。
本工事で納入したNo.3主ポンプは,口径3 000 mm立軸軸流ポンプで,排水量は20 m3/sである。吸込ケーシング(吸込水路)と吐出しケーシング(吐出水路)は土木構造と一体化したコンクリートケーシング(吸込:クローズピット傘形,吐出し:傘形)を採用し,吐出水路の先には止水を目的とした吐出しゲートとコンクリート埋込型の逆流防止弁を設置している。原動機はディーゼル機関とし,流体継手付きの直交傘歯車減速機で減速して主ポンプを駆動する。ディーゼル機関と減速機の冷却は屋内に設置した別置ラジエータで行い,吸気・排気のガラリにはユニットサイレンサを設けて騒音の低減を図っている。
本工事で納入した主な設備(表1)と場内写真(図2,図3),機場の断面図・平面図(図4~図6)を示す。
表1 納入設備の仕様
図2 場内写真(地下1階)
図3 場内写真(1階)
図4 機場配置断面図
図5 機場配置平面図(1階)
図6 機場配置平面図(地下1階)
(1)主ポンプの運転範囲
主ポンプは大雨時の100 %流量排水に加えて,平常時においても1日1回程度の小水量排水に対応する必要があるため,ディーゼル機関は可変速度制御を採用し,排水量を50 %~100 %に調整可能としている。加えて吐出し水位は潮位の影響を受けるため,広い運転範囲が求められ,主ポンプの羽根車はこれらの機場の特性を踏まえて設計を行った。
また,大型ポンプで一部がコンクリート構造になるため,模型ポンプを製作して工場試験を行い,水力学的性能を確認した。各種性能試験(吐出し量,全揚程,効率,キャビテーション)により,運転範囲において良好な結果であることを確認した。
(2)主ポンプの海水腐食対策
本機場は海に面しており,吸水槽には少量の海水が流れ込むため,希釈海水に対する主ポンプの腐食対策が必要であった。ステンレス製の回転体に対して,鋼板・鋳鉄製のケーシングには,犠牲陽極(防食亜鉛)を設置して防食性向上を図っている。
(3)吸水槽,吐水槽の止水作業
主ポンプや吐出しゲート,及び逆流防止弁の据付工事にあたり,No.3主ポンプの吸水槽と吐水槽をドライにする大規模な止水工事が必要となった。工事期間中において既設の排水機能を維持しながら施工する必要があるため,No.3主ポンプの吸水槽には角落しを設置し,吐水槽には逆流防止弁の設置場所を囲うように鋼製の止水壁を設けて止水を行った(図7)。
図7 止水壁設置状況(吐水槽)
(4)搬入計画
機器は特殊車両での輸送となる大型な物が多く,主ポンプも大型の部品を分割搬入して現地組立となる。施工や組立手順を考慮して搬入を計画する必要があり,機器の仮置きスペースの確保にも課題があった。将来用のNo.1主ポンプの開口部に仮設ステージを設けて,機器や工事資材の仮置きスペースとした。また,主ポンプの現地組立は大型の部品を場内の天井クレーンで運搬し,空中での取り回しも必要になることから,CADを使用した組立シミュレーションを行うとともに,より安全に施工するための仮設架台の設置や専用治具を製作して作業性の改善を図った。図8に回転体組立状況,図9にヘッドカバー仮組状況を示す。
図8 回転体組立状況
図9 ヘッドカバー仮組状況
(5)コンクリートケーシングの施工
当社では大型ポンプの施工実績が多数あるもののコンクリートケーシングの工事は十数年ぶりとなるため,施工にあたっては工事関係者で綿密な計画・打合せを行って施工した。
吸込・吐出水路にはコンクリートケーシングを構築するための大規模な土木工事が必要となる。水路壁面は広い範囲にわたってコンクリートを打設するため,打継目処理はチッピングに代わってバキュームブラスト工法を採用して作業性の向上を図った。また,吸込水路に埋設する吸込ライナーは設計精度を確保しつつ,コンクリート打設時の荷重に耐えられるように確実に固定する必要がある。従来は,大量の鉄筋と鋼材を用いて複雑に固定していたが,強度検討を行い支持構造を最適化して施工性の向上を図った(図10,図11)。
図10 吸込ライナー固定状況
図11 吸込ライナー完成状況
(6)機器配置と維持管理の効率化
本工事で納入したディーゼル機関の冷却水配管は口径が大きく複雑で,加えて周囲には排気管を支持するサポートを設置するため,小配管の敷設スペースと維持管理動線の確保が課題となった。排気管サポートは構造を見直し,小型化することで小配管の敷設スペースを確保した。小配管のレイアウトは維持管理動線を考慮して簡潔に収まるように設計し,計測器類(温度計,フローサイト)の配置は集約して確認作業の効率化を図った。
以上の主な課題解決を行って,据付工事を完了し,試運転調整を経て2023年4月から本格的な排水運転の運用を開始した。
本工事は水路の止水工事に始まり,大規模なコンクリートケーシングの土木工事などが課題であったが,現場の特性を考慮して設計・施工計画を行い,工夫を積み重ねていくことで順調に完工できたことを関係者一同誇りに感じている。
結びに,本工事では広島県東部建設事務所の監督職員をはじめ,工事関係者の多くの方々にご指導・ご協力をいただいた。関係各位に心から謝意を表する。
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム