能見 基彦* Motohiko NOHMI
常田 友紀* Tomoki TSUNEDA
*
技術・知的財産統括部 基盤技術研究部
カーボンニュートラル社会の実現には非化石燃料の利用が不可欠であり,水素は有望な候補燃料である。液体水素の輸送や貯蔵には液化水素ポンプが不可欠であり,現在液化水素ポンプの開発が活発に進められているものの,その性能評価法は十分に確立されていない。液化水素ポンプの効率算出には,液体の圧縮性や超臨界状態への遷移など複雑な要素を考慮する必要がある。本研究では,詳細な文献調査に基づいて液化水素ポンプの効率算出法を検討し,全ポリトロープ効率または静ポリトロープ効率が実用的であることを明らかにするとともに,具体的な算出手順を紹介する。
The use of non-fossil fuels is essential to realizing a carbon-neutral society, and hydrogen is a promising candidate fuel. Liquid hydrogen pumps are indispensable for transporting and storing liquid hydrogen, and although the development of liquid hydrogen pumps is currently being actively pursued, the method for evaluating their performance has not been fully established. Calculating the efficiency of a liquid hydrogen pump requires consideration of complex factors such as the compressibility of the liquid phase and the transition to a supercritical state. In this study, we examine a method for calculating the efficiency of liquid hydrogen pumps based on a detailed literature survey, clarify that polytropic efficiency (total) or polytropic efficiency (static) is practical, and also introduce a specific calculation procedure.
Keywords: Liquid hydrogen, Compressible fluid, Cryogenic fluid, Equation of state, Pump efficiency, Polytropic efficiency, Isentropic efficiency
現在,気候変動対策として世界中で脱炭素化が急務となっている。再生可能エネルギーの更なる導入や,化石燃料のCO2固定化等,様々な取り組みが検討されている。エネルギー資源が乏しい我が国では,数年前より発電への水素エネルギーの適用が期待されている。密度の低い水素を効率良く輸送や貯蔵するには,気体のまま圧縮するか,液化するのが効果的であり,後者のためには,液化水素用のポンプが不可欠である。液化水素は,常温水と比較して,圧縮性が強いと言われるが,この点を定量評価してみよう。流体において,密度ρと圧力pには以下の関係性がある(ここでは温度変化は無視する)。
ここで,cは音速である。この式(1)の左辺をΔp/Δρと差分近似し,Δp=1 MPaすなわち,約10気圧の圧力上昇する場合を考える。大気圧で室温の水の音速は1 500 m/s程度である。そこから密度変化量Δρは約
0.46 kg/m3となる。一方,大気圧で室温の水の密度は998 kg/m3である。ここから1 MPaの圧力変化に対応する密度変化は,加圧前の密度の約0.046 %となり,無視可能なオーダーである。一方,大気圧で飽和状態(-253 ℃)の液体水素の音速は1 100 m/s程度である。従って1 MPaの圧力変化に対応する密度変化はΔρは約0.8 kg/m3となる。この値は水の場合のオーダーに近いが,大気圧で飽和状態の液体水素の密度は71 kg/m3と,水に比べて非常に軽い。そのため,1 MPaの圧力変化に対応する密度変化は加圧前の密度の1.1 %となる。この値は,ポンプの効率を議論する際には無視できない程度となる。さらに昇圧量が大きくなると,液体水素が縮む効果が大きくなり,体積流量も小さくなる。すなわちポンプ内の速度三角形への影響も顕著になる。以上のことから,液化水素ポンプの設計開発においては,圧縮性の影響は,きちんと考慮しなければならない。さらに,適用先としてガスタービンへの燃料供給や,水素ステーションにおける燃料電池への充填を想定した場合,1.3 MPaの水素の臨界点圧力を確実に越え,超臨界状態に到達する。もはや物性として液体として扱うことは全くできない。
次に,非圧縮性流体と圧縮性流体の評価方法の違いを比較する。ポンプメーカーには馴染み深い水ポンプの性能と,空気などの気体を加圧する圧縮機の性能計測の関係性をFig. 1にて概観する。前述のように水は通常,非圧縮性流体と呼ばれ,ポンプの上流と下流の密度変化を無視することができる。一方,空気は通常,圧縮性流体と呼ばれ,圧縮機の上流と下流で密度変化が生じる。図には,流体中のエネルギーの変化を示すベルヌーイの式も記す。圧縮機用のベルヌーイの式は,流体の圧縮性を考慮して拡張されたものである。ポンプあるいは圧縮機の上流と下流で,ベルヌーイの式の値が一致せず不等式となるのは,ポンプや圧縮機が,流体にエネルギーを付与するからに他ならない。このエネルギーは,原動機からポンプや圧縮機に投入された軸動力が,回転する羽根車を通して流体に伝達されることによる。この時,非圧縮性流体の水の場合は,適切な位置で計測した水温に基づき,密度を決定すれば,後は流速と圧力と高さを計測すれば全ての情報が揃う。一方,空気の場合はベルヌーイの式に内部エネルギーが含まれ未知数が増える。密度や内部エネルギーの実測は,現場作業では容易ではないため,通常は圧力と温度を計測し,これを状態方程式に代入することにより求める。密度,圧力,温度,内部エネルギー,エントロピー等は熱力学的な状態量と呼ばれ,その関係性は状態方程式で記述される。状態方程式を用いることにより,熱力学的な状態量のうち,二つの値が与えられれば,残りの量が求まる。上述の水の性能評価において,特段,状態方程式を用いていないと思いがちであるが,温度から密度を求める際に,状態方程式(あるいは同様の情報を持つ物性の数表)を用いていることになる。なお,先に示した式(1)も,一種の状態方程式とみなすことができる。
Fig. 1 Performance calculations for incompressible fluid machinery (water pump) and compressible fluid machinery (air compressor)
以上の考察を出発点として,本研究では,過去の研究事例を参照し,液化水素ポンプの効率計算として適切な方法を検討する。なお,次章以降の物理量の変数表記は,複数の原典の文献に合わせてあり,章ごとに異なる点に注意されたい。
大橋と井上は圧縮機の効率計算法を詳細に検討している1)。これは当時(昭和49年,1974年),JISガス圧縮機試験方法分科会での議論に端を発した研究である。気体を対象とするが,そこでの議論は圧縮性の液体に対しても示唆に富むものである。これを,一部要約して述べる。
Fig. 2に示すような,定常動作をしている圧縮機を考える。圧縮機を取り囲む検査面に対し,エネルギー保存則は,式(2)となる。
Fig. 2 Energy balance in compressor (This figure is newly drawn based on reference 1.)
ここに,Id ,Ii は吐出し口と吸込口における全エンタルピーである。全エンタルピーを式(3)に示す。
すなわち,単位質量当たりの運動エネルギーC
2/2とエンタルピーiの和である。Wは単位質量当たりに軸動力を介して伝えられる比仕事(L=MW,Lは軸動力,Mは圧縮機の質量流量)である。Qは検査面の外から伝わる単位質量当たりの熱エネルギーである。これらの式と熱力学第一法則から,式(4)が導出される。
hi
は,流動摩擦によって流体内に発生する内部熱であり,いわゆる損失である。
次に静ヘッドhと,全ヘッドHを定義する。
なお,ここでのヘッドの単位はm2/s2であり,水ポンプのヘッドの単位であるmとは異なることに注意されたい。式(4),(6)より,式(7)が導かれる。
ここから,効率ηが算出される。
Hd
-Hi
を,著者らは圧縮ヘッドと呼称している。真の
(厳密な)圧縮ヘッドの計算は,式(5),(6)の定義より
となる。しかしながら式(9)の右辺第二項は,圧縮機内部の密度と圧力の分布が分からないと計算できない。そこで,吸込口から吐出し口までの状態変化を仮定する方法が提案されている。この仮定の違いから,以下の四種類が提唱されている。
・
静ポリトロープヘッドに基づく効率(静ポリトロープ効率)
吸込口から吐出し口まで静的状態量(ρとp)がポリトロープ変化をすると仮定する。
・
全ポリトロープヘッドに基づく効率(全ポリトロープ効率)
流動している気体の状態をせき止め状態で代表させ,仕事の授受は,せき止め気体との間で行われる。吸込口から吐出し口までせき止め状態量がポリトロープ変化をすると仮定する。
普通,これをポリトロープ効率と呼ぶ。
・
静等エントロピーヘッドに基づく効率(静等エントロピー効率)
吸込口から吐出し口まで静的状態量の変化が,一つの等エントロピー変化と,それに続く等圧変化の組み合わせで表されると仮定する。
・
全等エントロピーヘッドに基づく効率(全等エントロピー効率)
仕事の授受は,せき止め気体との間で行われ,吸込口から吐出し口までせき止め状態量の変化が,一つの等エントロピー変化と,それに続く等圧変化の組み合わせで表されると仮定する。
これは,普通,等エントロピー効率あるいは断熱効率と呼ばれる。
著者らは,流体力学的な効率と直接的に関連を持ちうるのは静ポリトロープ効率のみであるとしているが,検討会の結論としてJIS規格には全ポリトロープ効率が採用されたとのことである。この規格は,JIS B 8345:1995「ターボ形ガス用ブロワ・圧縮機の閉回路による試験及び検査方法」として結実し,現代に受け継がれている2)。しかしながら,その中で,全等エントロピー効率(断熱効率)か全ポリトロープ効率のいずれかを使うとされ,また全ポリトロープヘッドの計算に,せき止め状態の圧力ではなく,絶対全圧を使うなど,大橋と井上の論文との差異も散見される。
一方,極低温流体用のポンプに対し,上條は,断熱効率を用いている3)。この方法を要約する。流体の圧縮性の有無によらず,ポンプ効率を以下に定義する。
このWsは等エントロピー的流体を圧縮したときの力学的エネルギーの増加量で,Wは駆動軸を通してポンプに加えられたエネルギーである。ここに,ポンプによる極低温流体の圧縮過程をFig. 3に示す。
Fig. 3 Compression process of fluid in pump (This figure is newly drawn based on reference 3.)
大橋と井上は,ヘッドを変数hとして扱っているが,上條はエンタルピーをhとしている点に注意されたい。前述したように,本稿では,それぞれの原著論文の表記に準拠している。
ここで等エントロピー圧縮ならびに実際の圧縮過程のエンタルピー増加量を式(11),(12)に示す。
Δq12 は各種の損失で発生する熱量であり,大橋と井上の定義によるhi と同一である。またvは非容積であり,密度ρの逆数である。これよりポンプの断熱効率ηa は,
である。ここでエンタルピー変化量は,ポンプ入口・出口の温度と圧力を実測し,その値から点1,2is
,2act
のエンタルピーを文献値から求めている。なお入口と出口の動圧差と位置エネルギーの差,並びにポンプへの外部からの入熱は無視している。ここで興味深い点は,式(12)を計算するに当たりエンタルピーを文献値から求めることによって,軸動力を実測する必要が無い点である。上條は,当時の航空宇宙技術研究所のLN2とLOXのポンプ試験において,軸動力を実測し,さらに非圧縮性を仮定した効率と,式(12)を用いた効率は,測定精度を考慮すれば,極めて良く一致したとしている。一方,上條らは,同時期の別の文献で,比較的大きな圧縮性を示す液体水素に関しては,揚程を等エントロピー変化における全エンタルピーの増加,効率は断熱効率を用いるべきとしている4)。ここでの全エンタルピーの増加とは,大橋と井上の定義による全等エントロピーヘッドの,外部からの入熱の無いケースに他ならない。
この後,上條らは,真に近い効率と揚程を示すと考える実効率と実揚程を求めることが望ましいとして効率の計算方法を大きく変えた5)。その説明図をFig. 4に示す。
Fig. 4 Compression process of fluid in pump (This figure is newly drawn based on reference 5.)
便宜的に,Fig. 3の等圧線P1
とP2
の間に数多くの等圧線を引き,近接する2本の等圧線間の圧縮は全て等しい断熱効率で行われるとして,区分求積法的に効率を求めている。さらに後の報告において,LE-7液体水素ポンプの効率の検討から,液体水素は圧縮性が大きいため,高圧のポンプでは駆動エネルギーのかなりの部分が後に回収できる液体水素の圧縮に使われ,これを考慮するために,圧縮機などで用いるポリトロープ効率を用いる必要があるとしている6)。これは,30 MPa程度の昇圧能力のある強力なLE-7エンジンの開発者ならではの感慨と考えられる。
以上の文献調査の結果から,液化水素用のポンプの効率計算法に関しては,特に今後の高圧化を見越せば圧縮過程にポリトロープ変化を仮定した計算法が適していると考える。上條の初期の論文では,動圧の影響を無視しているが3),ポンプの入口と出口径の違いや,水素の圧縮性の効果によっても入口と出口の速度が変化することから,動圧の影響は適切に考慮したい。静ポリトロープ効率では,静ヘッドと動圧の和を取り扱い,全ポリトロープ効率では,せき止め状態の圧力を取り扱うことで動圧の影響を取り込んでいる。現在,全ポリトロープ効率が圧縮機の効率計算では主流になっているが,大橋と井上によれば,静ポリトロープ効率が,真の値に最も近づきうる仮定とされ1),どちらが液化水素ポンプに好適かは,まだ議論を要する。次章から,全ポリトロープ効率と,静ポリトロープ効率の計算法を,それぞれ示す。
上條の文献にもあるように,試験時のポンプの入口と出口の静圧と温度から,エンタルピー上昇を求めるのには,適切な状態方程式を必要とする。また液化水素のCFDにおいても,状態方程式の選定が重要である。いわゆる実在気体の状態方程式として,van der Waals式,Redlich Kwong式,Peng Robinson式が広く知られている。現在は,米国のNISTが提供する状態方程式群をプログラム化したREFPROPを用いる場合が多い7)。本研究でも,このREFPROPを用いることとする。
大橋と井上の文献では,全ポリトロープ効率の計算に当たり,理想気体の状態方程式を用いているので,そのまま使うことはできない。そこでREFPROPの使用を想定して,計算式を再構成する。これを式(14),(15),(16),(17)に示す。
ここでpt はせき止め状態の圧力,ρt はせき止め状態の密度,nt は全ポリトロープ指数,添え字のiはポンプ吸込口,dは吐出し口である。これらを用い,全ポリトロープヘッド(Hd −Hi ) pt は
全ポリトロープ効率ηpt は
ここでWは羽根車の単位質量当たりの軸動力を介して伝えられる比仕事である。式(14),(15),(16),(17)までは,どのような状態方程式を用いても成立する。
この効率計算法を実験に用いる場合は,以下の手順となる。まずポンプの回転数,トルク,質量流量を計測する。さらにポンプ上流下流の適切な計測点で,静温度と静圧を計測する。静温度と静圧力から,REFPROPを用い,計測点の密度を算出する。質量流量とポンプ寸法,計測点の密度を用い計測点での速度を算出する。この速度と圧縮性を考慮したベルヌーイの定理を用い,計測点でのせき止め状態の圧力と密度を求める。以下,式(15),(16),(17)の手順通りに計算する。
この効率計算法をCFDに用いる場合,まずREFPROPを状態方程式として用いて解析を実施する。計算実施後に,ポンプ入口と出口の静温度と静圧,流速を用い,入口と出口のせき止め状態の圧力と密度を求める。CFDソフトウェアによっては,ポスト処理で,せき止め状態の圧力と密度を出力する機能を持つので,それを使うのが簡便である。解析結果の軸動力(トルク×回転数)をポンプ質量流量で除して,比仕事を算出する。以下,式(15),(16),(17)の手順通りに計算する。
以上より,実験,CFDによらず,統一的な計算でヘッドと効率を求めることができる。
静ポリトロープ効率の計算法は,全ポリトロープ効率の計算方法と大きく異なるわけではない。式(18),(19),(20),(21),(22)に,これを示す。
ここでps は静圧,ρs は静的状態の密度(いわゆる通常の密度),ns は静ポリトロープ指数,添え字のiはポンプ吸込口,dは吐出し口である。これらを用い,静ヘッドの増加,(hd −hi ) ps は
このように,静的な状態量の変化にポリトロープ変化を仮定した全ヘッドを,静ポリトロープヘッドと呼ぶ。これは,式(21)で表される。
静ポリトロープ効率ηps は
静ポリトロープ効率の計算は,その過程で,せき止め状態の物理量の算出が不要なため,全ポリトロープ効率の計算よりも簡便と言える。
大橋と井上の文献,および上條らの文献を参照し,液化水素ポンプの効率として,全ポリトロープ効率と静ポリトロープ効率を適用した場合の,実験およびCFDでの計算法を示した。今後,この計算法を実際に適用し,問題点を洗い出していくことが不可欠である。本稿では取り上げていないが,明確な入熱がある場合の具体的な効率計算法や,ボイルオフガスが生じる場合の体積効率の考慮など,まだ検討すべき課題は多い。
昨年(2023年)は,当社との関連性も深いターボ機械協会50周年に当たるが,大橋と井上の論文も,ターボ機械協会の草創期に発表され,既に50年が経過している。当時は,圧縮機や液化水素ポンプの中の熱的状態量や速度の分布を定量的に評価することは不可能であった。しかしながらCFDの著しい発達により,流体機械内の各状態量の数値は容易に獲得できるようになった。これにより式(9)を,直接的に数値積分することによって,真の効率も計算可能となった。既にSchultzは,気体の圧縮工程をポリトロープ変化と仮定した際に生じる誤差を,比較的単純な仮定に基づき補正するポリトロープヘッド修正係数を提案しており,ASME PTC 10やJIS B 8345に取り入れられている8),9)。CFDから算出した真の効率の分析から,新たに精度が高く簡便な効率計算法が提案される期待もある。
JIS B 8345の重要な内容として,実際に現場で用いられる気体(規定ガス)と性能試験に用いられる気体(試験ガス)が異なる場合の性能換算法が挙げられる。この課題に関し,液化水素ポンプにおいては,異なる液体との間での信頼性のある性能換算法は確立しておらず,実務での利便性のため,研究の進展が待たれる。その一方,現時点でポンプの性能を確証するためには,頻繁に実液試験を行える環境の構築も不可欠と言える。また,そのような環境が,信頼性のある効率計算法の確立にも貢献すると考える。
本研究を実施するにあたり,Elliott Companyの鈴木貴之博士との多岐にわたる議論が大変有益であった。記して謝意を表す。
本研究の成果の一部は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「水素キャリアシステムの高性能化と課題解決のための基盤流体技術の構築」(JPNP14021)において得られたものである。本稿記載の研究にあたり,ご指導・ご協力頂いたNEDO関係各位,早稲田大学宮川和芳教授ほかNEDO 委託業務参加の大学・国立高等専門学校ご所属の関係各位に感謝の意を表す。
本稿は,大橋秀雄先生(当時,東京大学),井上雅弘先生(当時,九州大学),上條謙二郎先生(当時,航空宇宙技術研究所および東北大学)という,我が国における本分野の権威が執筆した論文を精読し,応用したものである。この作業は,足掛け50年にわたる,我が国における本分野の研究の歩みを辿ることでもあり感慨深いものであった。このことは,本稿の原典である「ターボ機械」誌の掲載記事の付記で述べたが,本稿の付記では,この分野における荏原の技術者の貢献に触れてみたい。本稿の主要部は,JIS B 8345「ターボ形ガス用ブロワ・圧縮機の閉回路による試験及び検査方法」の策定における議論を,大橋先生と井上先生が再吟味した内容に準拠している1)。このJIS B 8345の専門委員会(1976年)の構成表には,中條徳三郎氏(当時は社団法人産業機械工業会)と押田良輝氏(荏原製作所)という,当社の大先達のお名前が挙がっている。中條徳三郎氏は,早稲田大学基礎工学実験室勤務を経て,昭和4年(1929 年)に荏原製作所に入社し,以来,ポンプ,送風機,圧縮機の開発等に尽力され,当社の取締役や,技術顧問を歴任された。さらに,長年にわたる日本工業標準規格の制定と普及に貢献した功績が認められ,昭和34 年(1959 年)に藍綬褒章を受章された12)。その一方,昭和40年から昭和47年(1965年から1972年)まで,早稲田大学客員教授として機械工学の教育活動にも精力を傾けられた10),11)。押田良輝氏は,主に送風機,圧縮機分野で活躍され,中條氏との共著も含め,流体機械の教科書を多数執筆されている。また送風機,圧縮機関係のISO規格の我が国への紹介にも尽力されている13),14)。この他,我が国における送風機と圧縮機の歴史に関する労作を執筆されていることも紹介したい15)。また,本稿執筆にあたり文献調査において,JIS B 8345の,言わば兄弟規格であるJIS B 8340「ターボ形ブロワ・圧縮機の試験及び検査方法」に関しても参照したが,この改正版であるJIS B 8340-2000のメーカー側委員に,OBも含め,荏原製作所関係者が4名(照屋仁氏,酒井潤一氏,向林範久氏,林田重美氏)も参加されていることを知ることができた16)。こういった状況を見るにつけ,機械工業において極めて重要な規格の制定や改正に,当社の先達,先輩各位が尽力されていたことに胸が熱くなり,誇らしく思う次第である。
1) 大橋・井上,圧縮機ヘッドおよび効率の定義とその相互比較,ターボ機械,第2巻,第1号,(1974),pp.26-34.
2) JIS B 8345:1995「ターボ形ガス用ブロワ・圧縮機の閉回路による試験及び検査方法」.
3) 上條,高圧極低温ポンプの効率,日本機械学会論文集(B篇),52巻481号,(1986),pp.3266-3272.
4) 上條・山田・志村・渡辺・野坂・吉田,ロケット用小型高速液体水素ポンプの研究試作,ターボ機械,第15巻,第3号,(1987),pp.48-53.
5) 上條・佐藤・吉田・長尾,高圧極低温ポンプの性能評価,ターボ機械,第17巻,第8号,(1989),pp.16-20.
6) 上條,ロケットの液体水素ポンプ,水素エネルギーシステム,第30巻,第2号,(2005),pp.16-22.
7) https://www.nist.gov/srd/refprop
8) 照屋,ターボ形圧縮機,送風機性能試験方法の動向,ターボ機械,第4巻,第4号,(1976),pp.44-51.
9) Sandberg, M.R., Colby, G.M., “Limitations of ASME PTC 10 in Accurately Evaluating Centrifugal Compressor Thermodynamic Performance”, (2013), Proceedings of the Forty-Second Turbomachinery Symposium.
10) https://chronicle100.waseda.jp/ 早稲田大学100年史 別巻Ⅱ,第一編,第六章.
11) 中條,40年の思い出をめぐって,日本機械学会誌,第70巻,第578号,(1966),pp.308-309.
12) 中条取締役に藍綬褒賞授与,エハラ時報,第8 巻,第30 号,(1959),p.6.
13) 押田,ISO/TC 117(工業用送風機試験方法)とISO/TC 118(容積形圧縮機試験方法),日本機械学会誌,第72巻,第606号,(1969),pp.994-997.
14) 押田,ISO/TC 118(圧縮機など),日本機械学会誌,第76巻,第655号,(1973),p.906.
15) 押田,送風機・圧縮機の歴史,ターボ機械,第7巻,第2号,(1979),pp.80-86.
16) 向林・奥田,ターボ形ブロワ・圧縮機の試験及び検査方法JIS B 8340:2000の概要,ターボ機械,第30巻,第1号,(2002),pp.33-38.
本稿は,「ターボ機械 第52巻第4号(2024年)」に掲載した論文「液化水素ポンプの効率計算法に関する考察」を一部加筆・修正したものである。
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム