三輪 佳祐* Keisuke MIWA
野口 学** Manabu NOGUCHI
山本 涼太郎*** Ryotaro YAMAMOTO
鈴木 智康**** Tomoyasu SUZUKI
西條 康彦**** Yasuhiko SAIJO
岩永 悠**** Yu IWANAGA
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荏原環境プラント㈱
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技術・知的財産統括部 戦略技術推進部
***
技術・知的財産統括部 基盤技術研究部
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㈱シュリンクス
廃棄物処理施設において安全な施設運営を長期間達成するうえで低温腐食は障害になる。しかし,施設ごとに様々な腐食環境であることが想定されるため,各機器の腐食を直接モニタリングする手法が有効であると考え,センサを活用した腐食の検出を試みた。焼却炉での使用環境を模擬した試験を通じて,センサが高温環境での酸性溶液による腐食や灰に含まれる塩類の潮解による腐食を検出したことがわかり,センサを活用して実機での低温腐食を検出することに向けた有意な結果が得られた。
Low-temperature corrosion, such as that caused by sulfuric acid dew point and deliquescence, is an obstacle to the long-term safe operation of incineration plants. However, because the corrosive environment is expected to differ for each plant, we thought it would be effective to directly monitor the corrosion of the equipment, and tried to detect corrosion using sensors. Through tests simulating the incinerator exhaust gas environment, it was found that the sensor was able to detect corrosion caused by acidic solutions in high-temperature environments and corrosion caused by deliquescence of salts contained in ash, and significant results were obtained toward the use of sensors to detect low-temperature corrosion in incineration plants.
Keywords: Low-temperature heat recovery, Dew point corrosion, Economizer, ACM sensor
廃棄物処理施設において酸露点腐食や潮解性の高い塩化物などの塩類が助長して発生する低温腐食は,高効率の廃棄物発電を維持しつつ安全な施設運営を長期間達成するうえで障害になる。そこで,廃棄物焼却発電施設のエコノマイザ使用環境下における腐食挙動や影響因子の詳細を明らかにするため,実機で鋼材の暴露試験を行い,腐食挙動を調査した結果を前報1)で報告した。試験片の腐食状況,及び試験片の表面温度と腐食速度の関係を調査した結果,腐食が顕在化する温度と排ガスの組成から推定した酸露点が一致せず,推定した硫酸露点から約30℃下回る温度にて腐食速度が急増することがわかった。また,暴露試験においては灰の潮解による減肉量への影響はほとんど認められなかった。一方,ごみの成分は地域,季節,社会情勢などにより変動し,排ガスに含まれる酸性ガスの量や灰の組成は焼却方式によって異なる傾向があるため,施設ごとに様々な腐食環境であることが想定される。つまり,露点の推定や温度と腐食速度の関係を整理するといった間接的な腐食環境の評価では不十分であり長期における施設運営に支障が出る可能性がある。
そこで,各機器の腐食を直接モニタリングする手法が有効であると考え,結露や濡れによる腐食を検出することを試みた。本報では実機の腐食を検出するためにセンサが活用できるか調査した結果について紹介する。
廃棄物処理施設における排ガス環境での湿食は酸性ガスの凝縮や潮解性のある塩分を含む灰の吸湿によって機器の表面が濡れた状態になることで生じる。そこで,大気腐食環境で使用されてきたACM(Atmospheric Corrosion Monitor)センサ2)を用いて,濡れた状態になることで生じる腐食の検出及びその腐食量の測定を目指した。ACMセンサの構成を図1に示す。ACMセンサは基板金属の上に絶縁層を隔てて導電層を積層した構造である。基板金属には負極となる鉄鋼材料などを使用し,導電層には正極となる炭素や銀を使用しており,ACMセンサ上に水膜が形成されると基板金属と導電層間をガルバニック電流が流れる。この電流を基板金属の腐食速度に対応する腐食電流として計測することでACMセンサ上における濡れの発生,濡れ状態にある時間及び腐食量を評価することが可能である。しかし,ACMセンサは大気腐食でのモニタリングに活用されてきたが,廃棄物処理施設のような高温環境や灰を含む環境にて活用した報告例はほとんどない。したがって,廃棄物処理施設の排ガス環境においてACMセンサを使用するうえで,高温環境やダスト成分が堆積する環境における濡れと乾きの状態や腐食の度合いをモニタリングできるかを確認するため,高温環境ならびに灰を堆積させた環境を模擬し,ACMセンサの構成材料の選定やACMセンサの出力評価を行った。
図1 ACMセンサの概略図
ACMセンサの構成である基板金属と導電層の材質を検討した。模擬環境における試験に使用したACMセンサの外観図を図2に示す。基板金属すなわち負極材料には炭素鋼(SPCC:以後Feと表記する),銅(以後Cuと表記する),フェライト系ステンレス鋼(以後SUS430と表記する)を選択した。また,導電層すなわち正極材料には炭素(以後Cと表記する),銀(以後Agと表記する)を選択し,基板金属/導電層の組み合わせとしてFe/C,Fe/Ag,Cu/C,SUS430/CのACMセンサを使用した。
図2 種々の電極材料で構成されたACMセンサ
実機の使用環境である高温環境を模擬するため,140℃に加熱保持したホットプレート上にセンサを設置し,センサの櫛部に140℃に加熱した0.1wt%H2SO4水溶液を3ml程度滴下した。測定間隔を10sとしてACMセンサの出力評価を行った。
焼却炉の稼働中は絶えず伝熱管に灰が堆積するため定期的にスートブロワで灰の除去を行うが,必ずしも全てを除去出来るわけではない。つまり,伝熱管には常に一定量の灰が堆積している箇所があり,灰に含まれる塩化物が吸湿することによる伝熱管の腐食が懸念される。また,稼働中だけでなく停止中の環境も模擬するため,灰を堆積させたセンサ近傍の温度及び湿度を変動させたときのセンサ出力を評価した。エコノマイザの伝熱管から採取した灰をACMセンサに堆積させた様子を図3に示す。Fe/C対で構成されたACMセンサの櫛部を治具で囲い,灰を1cm程度の均一な厚みになるように堆積させた。また,前報において灰はNa,K,Caなどの酸化物や塩化物を多く含んでいることを確認しており,灰が潮解する相対湿度が室温では約30%RHであることを事前に確認した。灰を堆積したACMセンサをあらかじめ20%RHに保持した恒湿槽に設置し,出力を測定した。その後,40%RHに調湿し一定時間保持後,140℃に加熱保持したホットプレートによってACMセンサを加熱して,この間の出力を測定した。
図3 実機灰を堆積させたACMセンサの正面写真
0.1wt%H2SO4水溶液を滴下したときのFe/C及びFe/Ag対のACMセンサ出力を図4に示す。溶液滴下後ただちに出力が立ち上がり,いずれのセンサも同様の挙動を示したが,正極の材料にAgを使用したセンサの出力がより大きいことを確認した。その後出力は一定であったが溶液滴下後200sまでには出力が再び0.1μAを下回った。また,このときセンサに滴下した溶液は全て蒸発していることを確認した。
図4 0.1 %H<sub>2</sub>SO<sub>4</sub>水溶液を滴下した正極材料の異なるACMセンサの出力
次に0.1wt%H2SO4水溶液を滴下したFe/C,SUS430/C及びCu/C対のACMセンサ出力を図5に示す。いずれのセンサも溶液滴下直後に1 000μA程度の大きな出力を示し,出力に大きな差はなかった。また,その後出力が減少するまでにかかる時間は異なるが,センサに滴下した溶液が全て蒸発したときには出力が0.1μAを下回った。
図5 0.1 %H<sub>2</sub>SO<sub>4</sub>水溶液を滴下した負極材料の異なるACMセンサの出力
灰をセンサに堆積させ湿度変化を与えたときのACMセンサの出力変化を図6に示す。はじめに焼却炉が停止しているときを模擬し,室温において湿度変化を与えた。恒湿槽にセンサを設置し20%RHに保持後5時間経過しても出力に変化がないことがわかった。その後槽内を40%RHに上昇させても直ちに出力は大きく変化しなかったが,時間経過とともに徐々に大きくなり,1μAを示した。稼働中の環境を再現するためセンサを加熱すると,出力が一時的に立ち上がったが,直ちに減少し1nAオーダーの値を示した。
図6 温度及び湿度変化を与えたときの出力変化
種々の電極材料を組み合わせたACMセンサに高温のH2SO4水溶液を滴下したが,いずれのセンサも溶液滴下直後から大きな出力を示し続け,水溶液が蒸発してセンサを水分が覆わない状態になったときには大きく減少した。電極材料により電気抵抗値が変わるため,センサの検出能力に差が現れるが,本試験においてはいずれのセンサからも十分有意な値である数μAの出力が認められたので,いずれのセンサも高温環境で濡れた状態を検知できることがわかった。
ここで,水溶液滴下試験後のACMセンサを正面から見た様子を図7に示す。正極材料にAgを採用したセンサのみ黒く滲んだ部分が多くみられる。これはAgが高温のH2SO4水溶液により腐食したことが原因であると考えられ,焼却炉の排ガス環境で起こりうる硫酸露点腐食のモニタリングにAgを採用したセンサを使用してもAgが次第に腐食し,センサの故障に繋がることが予想される。
図7 高温における硫酸水溶液滴下後のACMセンサ
実機エコノマイザの伝熱管表面から採取した潮解性のある灰をセンサに堆積させ,温度及び湿度変化を与え,図6に示した結果を得た。灰は約30%RHで潮解するが,これは低湿度で潮解性を示すCaCl2などの塩化物に起因すると考えられる。灰が潮解する約30%RHを下回る湿度帯において,灰は乾燥したままであり,センサ表面に水分が付着しないためセンサの出力に変化が見られなかったと推測される。さらに,乾燥した灰が堆積してもセンサの基板金属と導電層の絶縁状態を妨げていないことがわかった。一方,灰が潮解する約30%RHを上回る湿度帯に保持することでセンサの出力が増加したが,この挙動は灰に含まれる塩化物が吸湿しセンサ表面上に塩化物水溶液が形成されたため,基板金属と導電層が導通したことを示していると考えられる。
恒湿槽内の湿度を上昇することで出力が現れ,センサの温度を上昇することで一時的なピークを示した。この挙動は灰に含まれる塩化物が吸湿しセンサ表面に形成された塩化物水溶液と基板金属との腐食反応が昇温により一時的に高まったことを捉えていると考えられる。一方,センサの加熱中も恒湿槽内を室温における40%RHに保持していたが,センサへの加熱によって灰及び近傍の空気も加熱され,その温度が仮に140℃であれば相対湿度は0.5%RH程度に大きく減湿するため塩化物の吸湿が止まり,塩化物水溶液も蒸発すると推定される。したがって,昇温状態を保持することで塩化物水溶液とセンサとの接液部が徐々に消失し,出力が減少したと考えられる。
ここで,温湿度変動試験後に灰を除去したセンサ表面の写真を図8に示す。基板金属である炭素鋼の光沢部が大半であるが,わずかに黒い錆を形成している箇所も見られた。灰に対して温湿度変化を与え,センサ表面で乾燥状態と湿潤状態が繰り返されることで形成された腐食生成物が観察できた。つまり,基板金属である炭素鋼が腐食し錆を形成する反応に起因する腐食電流をセンサによって検出できたと考えられる。また,腐食生成物は一部でしか形成されておらず,健全な部分がほとんど残っていることから,灰が堆積し,温湿度の変動が繰り返されるような焼却炉の排ガス環境で長期間使用できることが示唆された。
図8 灰を堆積し温度及び湿度変化を与えた試験後のセンサ表面写真
酸露点腐食や潮解性の高い塩化物などの塩類が助長して発生する低温腐食は,廃棄物処理施設の運営において障害になる。しかし,施設ごとに灰や排ガスの成分に違いがあり,間接的な腐食環境の評価では不十分であるため,ACMセンサによる腐食のモニタリングを試みた。そこで,ACMセンサを実機で使用するにあたり,廃棄物処理施設の高温環境や灰を含む特徴的な排ガス環境を模擬し,腐食の有無をモニタリングできるかを確認した。
ACMセンサを実機の使用環境で想定される140℃に加熱し,0.1wt%H2SO4水溶液を滴下したところ,溶液滴下直後から蒸発する過程の出力変化を捉えられたため,高温酸性水溶液による腐食の有無をACMセンサで検出できることが確認できた。さらに,ACMセンサに灰を堆積し,温度及び湿度の変化を与えたところ,灰に含まれる塩化物の潮解による微小な腐食が発生し,その腐食反応をセンサの出力で捉えた。これらの試験結果から,高温環境及び灰堆積下環境において,センサ表面のわずかな濡れによる腐食の検出が可能であることがわかった。また,基板金属を機器と同様の材質にでき,機器の実際の腐食をモニタリングできることも確認できた。今後はACMセンサを低温腐食が疑われる箇所に設置し,実機でのモニタリングを行い,施設の運転データや実際の腐食量との関係性を整理することで,腐食の有無だけではなく,腐食量の度合いを推定するといった活用も期待できる。
1) 三輪佳祐,村末 創,長 洋光,野口 学,廃棄物処理施設における低温腐食対策技術の構築 第1報 実機の腐食環境調査,エバラ時報265号,p.11-15,(2023).
2) 元田慎一,鈴木揚之助,篠原 正,兒島洋一,辻川茂男,押川 渡,糸村昌祐,福島敏郎,出雲茂人,海洋性大気環境の腐食性評価のためのACM型腐食センサ,材料と環境,43,550-556,(1994).
3) 佐々木裕也,押川 渡,篠原 正,屋外環境下におけるACMセンサ出力と腐食速度の関係,第52回材料と環境討論会講演集,p.57,(2005).
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