石原 慎也* Shinya ISHIHARA
鍋田 英明* Hideaki NABETA
平田 甲介* Kosuke HIRATA
*
建築・産業カンパニー 産業事業統括部 産業チラー事業ビジネスユニット部
グローバルな環境規制に対応した低GWP冷媒を採用した半導体製造装置向けチラーRJ-XA型を2023年6月から販売開始した。RJ-XA型は,冷媒に不燃性で毒性のない低GWPであるR513Aを採用するとともに,インバータ制御による省エネ,従来機種と比較して製品質量の軽量化を実現している。また,汚染によるリスクを配慮して接液部に銅を使用しない製品仕様をオプションとして追加した。
The Model RJ-XA chiller for semiconductor manufacturing equipment, which uses a low-GWP refrigerant that complies with global environmental regulations, has been on sale since June 2023. It is also energy-efficient thanks to inverter control and being lighter in weight than conventional models. In consideration of the risk of contamination, a product specification that does not use copper in the wetted parts has been added as an option.
Keywords: Low GWP refrigerant, Semiconductor manufacturing, Copperless, CMP, Environmental regulations
冷凍空調分野で使用される冷凍機やチラーの冷媒として一般的にHFC(ハイドロフルオロカーボン)が用いられている。HFCはオゾン層破壊効果と高いGWP(地球温暖化係数:Global Warming Potential)を有する温室効果ガスである特定フロン「CFC(クロロフルオロカーボン)とHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)」の代替フロンとしても知られている。しかし,HFCにはオゾン層破壊効果は無いものの,高いGWPを有しており,地球温暖化に及ぼす影響が大きい。そのため,2016年のモントリオール議定書締結国会議にて,HFCの生産量及び消費量の段階的な削減を行うキガリ改正が採択され,我が国もこれを受諾し,2019年からHFC規制を開始した。
図1にキガリ改正によるHFC削減スケジュールを示す。本改正では,生産量や消費量の削減目標を「先進国グループ」「途上国第1クループ」「途上国第2グループ」の3つに分けて設定されている。日本を含む「先進国グループ」は,途上国に先行し2036年までに85%の削減を目標としている。キガリ改正の削減目標に伴い,GWPの高いフロンの生産並びに使用は世界的に減少傾向にある。このような背景から,冷熱部門として新たに参入する半導体設備市場向けに,低GWPのフロンを冷媒として採用した半導体製造装置向けチラーの開発を進めた。
図1 キガリ改正のHFC削減スケジュール
図2は,各種冷媒のGWPと冷媒沸点を示したグラフである。GWPとは二酸化炭素を基準として,他の温室効果ガスがどのくらい地球に対して,温暖化する能力があるかを数値化したものである。
図2 各種冷媒のGWPと沸点マップ
近年,冷凍機やチラーに不燃,微燃性の低GWP冷媒が採用される傾向が強く,フロン排出抑制法の適用を受けないHFO(ハイドロフルオロオレフィン)や自然冷媒を採用した冷凍機やチラーも市場に普及している。
当社の冷熱事業でも,冷媒としてさらなる「環境性,安全性」を考慮した選定が重要と考えており,低GWP冷媒の採用と同時に,自然冷媒を採用した製品の開発および早期の市場投入を目指していた。
当社は大型冷凍機の開発,製造,メンテナンスに長い歴史があり,冷熱技術の知識,経験を有しているが,これまで冷熱部門は一般空調用途,プロセス用途の製品を納入するのが主であった。
今回,冷熱事業で長年培った技術と経験を最大限に活かし,新たに半導体製造装置向けチラーを開発した。その先駆けとして,2022年1月から当社第1号機となるチラーRJ-SA型(図3)の販売を開始した。さらに,2023年6月からは第2号機となる低GWPチラーRJ-XA型(図4)の販売を開始した。
図3 RJ-SA型
図4 RJ-XA型
半導体製造装置(エッチング,CMP(平坦化装置:Chemical Mechanical Polisher),マスク描画など)の各工程では冷却が必要となる様々なプロセスがある。ここで利用されるチラーは半導体プロセスで必要な冷却機能として重要な役割を担う製品であり,半導体製造装置に不可欠な付帯装置である。
表1にRJ-SA型,RJ-XA型の仕様比較表を示す。
表1 RJ-SA型,RJ-XA型仕様表
RJ-SA型とRJ-XA型の大きな違いは,使用温度範囲の違いが挙げられる。RJ-SA型は-20℃~30℃とマイナス温度帯でも使用できることが大きな特長である。一方,RJ-XA型は常温帯での使用に特化したチラーであり,5℃~40℃を使用温度範囲としている。さらにRJ-SA型と比べ製品質量の軽量化を実現した。運転制御方式にインバータ制御を採用し,消費電力の削減を図っている。
なお,RJ-XA型は,半導体分野で必須とされているSEMI(国際半導体製造装置材料協会)安全ガイドラインのS2,S8,F47,CEマーキングの取得,UL認証を得ている。
市場の半導体製造装置向けチラーで一般的に採用されている冷媒として,R404AやR410A,R448Aなどがある。これら冷媒のGWPの値を表2に示す。
表2 各冷媒のGWP数値
欧州連合(EU)がフッ素系ガスの環境負荷を低減するために実施したF-gas規制(Regulation(EU)No 517/2014)により,2020年1月から高GWPの冷媒を使用している装置や機器などを販売することを禁止し,GWPが2 500以上の冷媒については既存装置のサービス,メンテナンスでの使用も禁止している。そのため,F-gas規制以降は,R410AやR448Aが高GWP冷媒の代替として使用されていた。
今後もグローバルな環境規制は強化されることが予想され,特にフロン系冷媒を用いている装置は規制への対応が逼迫している。このような状況を鑑みて,RJ-XA型は開発当初から先を見据えてF-gas規制によるGWP規制値よりも低いGWP冷媒の選定を検討し,不燃性で毒性がなくGWPが629であるR513Aを採用した。
RJ-XA型の蒸発器と凝縮器にはプレート式熱交換器を採用している。プレート式熱交換器のブレージング部に銅を使用しているのが一般的であるが,半導体製造工程においてチラーからの銅の流出によるプロセスへの影響が懸念事項となっている。RJ-XA型は,銅ブレージング仕様の他に,オプションとして汚染リスクの低いステンレスブレージング仕様をラインナップに加え,ユーザーである半導体装置メーカやデバイスメーカからも好評をいただいている。
当社CMP装置F-REX300X型に精密チラーRJ-XA型を接続し,模擬負荷を掛けた状態で連続運転試験を行った。ウェーハ研磨時における4テーブル分の研磨パッド温度の変化を計測し,評価した。研磨時の研磨パッド温度と精密チラーRJ-XA型の出口温度の関係を示したデータを図5に示す。
図5 CMP装置パッド温度とチラー出口温度
CMP装置内の各テーブルにおいて,約1時間に10枚ずつのウェーハ研磨試験を実施した。RJ-XA型は,4テーブル分の研磨によって生じた熱負荷の急変に対応し,安定した循環液温度が供給できることを確認した。
現在,RJ-SA型の後継機として,自然冷媒R744(CO2)を採用したRJ-CA型の開発を進めている。R744はGWPが1と非常に小さく,毒性もない自然冷媒である。表3にRJ-CA型の計画仕様値を示す。
表3 RJ-CA型計画仕様値
RJ-CA型は自然冷媒R744を採用しながらも,半導体製造装置に発生しやすい熱負荷の急変にも応答可能な制御機能を備えた装置を目指して技術開発に注力している。
各ユーザーに満足いただける仕様を達成すべくRJ-CA型の開発を進めて,早期に上市する所存である。
Fluorinertは,3M社の商標です。
Opteonは,The Chemours Company FC, LLCの商標です。
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