小川原 真夏* Manatsu OGAWAHARA
中村 幸弘* Yukihiro NAKAMURA
香島 正実* Masamitsu KOSHIMA
*
荏原環境プラント㈱
ストーカ式焼却炉に使用される部品の1つである火格子の長寿命化を目的として,火格子へのレーザ肉盛技術を開発した。実炉で2年間の実証試験を実施した後もレーザ肉盛層には損傷がなく,火格子の質量減少量が従来品の1/3以下であった。これにより大幅な設備改造を行わずに火格子を3倍以上長寿命化させることができた。また,ライフサイクル全体のCO2排出量が1/3以下に削減される。
A laser cladding technique was developed to extend the lifetime of grates, one of the components used in stoker incinerators. After a two-year demonstration test in an actual furnace, the laser-overlay layer was not damaged, and the mass loss of the grates was less than one-third of that of conventional grates. By using this technique, the lifetime of the grates could be extended more than three times without major equipment modifications. In addition, CO2 emissions over the entire lifecycle are reduced to one-third or less.
Keywords: Environmental engineering, Solid waste, Stoker incinerator, Grate, Surface modification, Laser cladding
昨今の環境意識の高まりから,ごみ焼却施設の設備もライフサイクルの環境負荷改善が求められている。焼却炉はごみ焼却施設においてごみを高温で燃焼させる役割を担っており,その種類の1つとしてストーカ式焼却炉がある(図1)。ストーカ式焼却炉は,火格子(図2)と呼ばれる部品で構成される可動式の床によりごみを搬送・攪拌することで,高い燃焼安定性を実現している。火格子は高温腐食環境に起因する減肉が生じるため定期的に交換・廃棄する必要があり,ライフサイクルの環境負荷が高い要因となっている。そのため,火格子の長寿命化が求められており,いくつか提案されている解決方法のうち,高級材で火格子を製作する場合にはレアメタルの大量使用による環境負荷増加とコストの増加が,火格子を水冷する場合にはポンプでの電気使用量増加によるCO2排出量の大幅増加が問題となる。また,火格子の水冷化には大幅な設備改造が必要となるため既存施設への導入は困難である。
図1 ごみ焼却施設のフローとストーカ式焼却炉
図2 火格子の構造
本開発では,既存施設への導入に大幅な設備改造を必要とせず,火格子のライフサイクルでの環境負荷低減と長寿命化を両立させることを目的として,火格子へのレーザ肉盛加工による長寿命化技術の開発と実証試験を行った。
レーザ肉盛加工とは,レーザビームを照射しながら金属粉末を噴射することで表面に異なる材質を肉盛する加工技術である。次世代コーティング技術として期待されており,従来の加工方法と比較して以下の長所がある。
①溶射やめっきと比べて母材-コーティング層間の密着強度が高いため,剥離の可能性が極めて小さい
②アーク溶接と比べて入熱量が極めて小さいため,母材への熱影響が小さい
耐熱鋳鋼製の火格子に対して4面にレーザ肉盛加工を行った。加工範囲と加工面外観を図3に示す。加工範囲
(図3(a))は,炉内でごみと接する部分の中で特に高温となるため減肉量が大きい箇所に設定した。
図3 レーザ肉盛した火格子 (a)肉盛加工範囲,(b)加工面外観
レーザを走査させることを繰り返すことで加工を行うため,図3(b)に示すような縞模様が生じた。
実証試験では,表1に示す自社開発材2種類,ニッケル基合金2種類,コバルト基合金1種類を肉盛材として使用した。比較のために肉盛していない火格子も同時に試験を実施した。
表1 レーザ肉盛材質一覧
試験はあらかわクリーンセンター(以下,福島市と記す)及びいわみざわ環境クリーンプラザ(以下,岩見沢市と記す)の2施設で稼働している焼却炉にて実施した。レーザ肉盛火格子は,火格子の中でも高温となり減肉が顕著である燃焼帯中央部に設置した。
2年間使用した火格子をケレン加工して表面のスケールやタールを除去したのち,外観点検と質量測定を実施した。
福島市で試験した火格子の画像を図4に示す。表面には酸化等による変色が生じた。肉盛していない火格子 (図4(a))は面が不均一に減肉することで凹凸が生じ,火格子の各辺と角は丸みを帯びていた。
図4 2年経過時の火格子前面外観 (a)レーザ肉盛無し,(b)有り
レーザ肉盛した火格子(図4(b))は加工部に角欠け,剥離などは確認されず健全な状態であった。また,角部の丸まりが確認されなかったことと,レーザ肉盛によって生じる縞模様が残存していることから,減肉量は極めて小さいことがわかる。
2年間使用した火格子の質量減少比を図5に示す。縦軸は肉盛していない火格子の質量減少量を100 %とした際の各材料の質量減少量を示す。
図5 2年経過後の火格子の質量比 (a)福島市,(b)岩見沢市
福島市(図5(a))では肉盛した火格子の質量減少量は肉盛していない火格子の1/3から1/2程度であった。特に減少量が小さかったのは,コバルト基合金(肉盛していない火格子と比べて30 %の減少量)と開発材1(33 %)であった。岩見沢市(図5(b))では肉盛した火格子の質量減少量は肉盛していない火格子の1/2から2/3程度であった。特に減肉量が小さかったのは,ニッケル基合金2(43 %)と開発材1(44 %)であった。2つの施設で材料による質量減少比の傾向が異なっていたのは,ごみ質や運転条件などの影響によるものと考えられる。
開発材1の減肉量はいずれの施設も小さく,肉盛していない火格子との減肉量比から寿命は3倍程度になると予測される。レーザ肉盛加工を行ったのは火格子のうち図3に示す部分のみであるが,高温となり減肉が大きい箇所を保護することで,ライフサイクルの環境負荷低減効果と長寿命化効果を得ることができた。
表2に示す条件でライフサイクルアセスメントを行った。レーザ肉盛加工を行った場合の火格子のライフサイクルでのCO2排出量を図6に示す。肉盛した火格子は導入初期には肉盛する分CO2排出量は大きいが,寿命が長いことと更新時に再度肉盛加工が可能であることから,使用時間が経過してもCO2排出量の増加は小さい。ライフサイクル全体では肉盛した火格子のCO2排出量は肉盛していない火格子の1/3以下になる。
表2 ライフサイクルアセスメントの計算条件
図6 レーザ肉盛によるライフサイクルでのCO<sub>2</sub>排出量変化
ストーカ式焼却炉への改造を行うことなく火格子を長寿命化する方法として「火格子へのレーザ肉盛加工」を開発した。2年間の実証試験を行い,レーザ肉盛層が健全な状態であることを確認した。肉盛した火格子の質量減少量は耐熱鋳鋼製火格子の1/3以下であったことから,レーザ肉盛により火格子が3倍以上に長寿命化され,火格子のライフサイクルにおけるCO2排出量が1/3以下に削減されることを確認した。また,本技術は既設のストーカ式焼却炉に対して改造なく適用できるため,導入の制約・リスクは小さい。新規のストーカ式焼却施設だけでなく,既設の焼却施設にも本技術を活用し,安心・安全なごみ焼却処理技術の向上に努力する所存である。
結びに,開発並びに実証試験実施に当たり,多大なるご協力を頂いた福島市,岩見沢市をはじめとする関係各位に深く感謝申し上げる。
1) 小川原真夏ほか,ストーカ式焼却炉における火格子へのレーザ肉盛加工による長寿命化,第45回全国都市清掃研究・事例発表会講演論文集(2024).
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