相原 瑛学* Eigaku AIHARA
福田 清治* Seiji FUKUDA
*
インフラカンパニー 生産統括部 技術部
アラブ首長国連邦のドバイ市に当社が納入した雨水排水ポンプについて紹介する。納入地域で初めて整備される大規模な排水システムで集められた雨水を海へ放水するためのポンプである。当ポンプは降雨時に雨水を排水するだけでなく,ドバイ市で懸念が高まっている過剰な地下水を排水するものである。塩分濃度の高い地下水に対応するため,ポンプケーシングに腐食に強いスーパー二相ステンレス鋳鋼を採用した。スーパー二相ステンレス鋳鋼製のポンプとしては当社最大級のものである。
This paper introduces the storm water pumps we delivered to Dubai, UAE. These pumps not only manage storm water in rain events, but also pump excess ground water, an increasing area of concern in Dubai, into the sea. For this reason, these pumps are made of corrosion-resistant super duplex stainless steel casting to handle highly saline ground water. The pumps are some of the largest super duplex stainless steel castings we have made to date.
Keywords: Vertical volute pump, Drainage, Duplex stainless steel, CFD, Stress analysis, Torsional, Lateral
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ市に,雨水と地下水を集めて排水するための深度トンネル雨水システム(Deep Tunnel Storm Water System,DTSWS)が建設された。平均深度42mのトンネルは,海岸から少し離れた埋立地に建設された深さ56mのポンプ場に通じている。直径10m,全長10.3kmのトンネル及び自然放水量110m3/s,ポンプ運用による総吐出し量36m3/sの容量を備えたポンプ機場が2021年から稼働している1)。
豪雨となった場合に発生する洪水被害を軽減するために貯留管は地下深くに設置されており,主雨水ポンプは地下40mより深い大深度に据付けられている(図1,図2)。また,ドバイ市で懸念が高まっている過剰な地下水を排水する役割も担っている。本稿では,本ポンプ機場に当社が2台納めた主雨水ポンプ(2台合計吐出し量18m3/s)を紹介する。
図1 ポンプ設備外観
図2 納入機器モデル
ポンプの要項は表1の通りである。高揚程であることから立軸渦巻ポンプを採用している。本ポンプはインバータによる回転速度制御が行われており,雨水排水以外の目的として回転速度を落として地下水の排水運転を行っている。地下水排水時の要項は表2の通りである。
表1 ポンプの要項(豪雨時)
表2 ポンプの要項(地下水排水時)
取扱液は地下水(Groundwater)と雨水(Stormwater)の2種類あり,地下水には海水の混入が認められ,塩化物イオン濃度が高いためポンプ接液部には腐食に強いスーパー二相ステンレスを採用している。
一方,雨水と共に流入が想定される異物がポンプに流れ込んでも閉塞しないように流路が広いシングルボリュートとしている。
ポンプ室はトンネルより下方の貯留管最深部にあり,地下40mより深い大深部に位置する。ポンプと電動機の荷重をそれぞれの床で支える2床式構造となっており,ポンプ室と電動機室の床は14m以上離れている。また,機場レイアウトの関係上,ポンプは回転方向違いを1台ずつとしている。
ポンプ床と電動機床が離れていて軸受間距離が長くなりすぎるため,ポンプと電動機の間に中間軸受装置を設置している(図3)。
図3 設置レイアウト図
接液部品であるポンプケーシングの材質はスーパー二相ステンレス鋳鋼を採用している。スーパー二相ステンレス鋳鋼の鋳造性,鋳造能力及び輸送制限を考慮してケーシングは2つ割構造を採用している。
吸込管形状を模擬してCFD解析(Computational Fluid Dynamics:流れ解析)を実施し,ポンプにとって有害な渦が発生することなく,取扱液がインペラへ流入することを確認した。
また,高い効率要求を満たすため,既存のインペラから翼枚数を増やした。インペラの翼枚数を増やすことによって吐出し量,全揚程,効率が上昇するが,性能についてより予測精度を高めるため,CFD解析によりハイドロ寸法を決定した。図4に55%流量における圧力コンタを示す。図の赤い部分が圧力の高い範囲で,運転範囲の小流量側においても圧力分布に大きなかたよりが見られないことを確認した。
図4 流れ解析結果
地下深くに設置されるため押込み圧力と全揚程が共に高いことから設計圧力が高くなる。設計圧力が高いとポンプケーシングの変形及び変形を抑制するリブ付け根部での応力集中が発生することがある。それらが機能上問題にならないように応力解析を実施してリブ形状及び肉厚等を決定した。また,ケーシングが2つ割のため変形によって割り面から取扱液が漏れないことも応力解析で確認した。図5に耐圧条件における応力コンタを示す。応力が高い場所は赤くなるが,応力が高い場所は局所的であり,ケーシングの変形が許容内に収まることを確認した。
図5 応力解析結果
ポンプは回転周波数と固有振動数が一致することで共振が発生する。本ポンプは回転速度制御による回転速度の変化が大きいため,共振のリスクが高くなる。そのため,各種振動解析を実施した。
ポンプ本体の固有振動数解析,電動機,中間軸受装置及びそれを支える架台一体の固有振動数解析,回転体の軸振動解析の結果から,運転が予定されている全ての回転速度で共振しないことを確認した。
回転体のねじり振動解析では,特定の回転速度で共振することが確認された。回転速度の範囲が広く全ての範囲で共振を回避することが困難なため,応力解析を実施し,共振時においても強度に問題ないことを確認した。
当社富津工場において実機のインバータ,電動機,ポンプを用いて性能試験を実施した(図6)。吸込圧力を確保するために常設のブースターポンプに加えて仮設のブースターポンプを用いて性能試験を実施し,仕様を満足することを確認した。
図6 工場試験風景
本ポンプは,当社では大きさ,構造,材料に関し,これまで同等の実績がなかったが,関係部門と連携し,種々の設計及び製造検討を実施し,納入することができた。
2024年4月に発生した豪雨の際は,当ポンプ2台が1週間以上雨水排水運転を続け,ドバイ市の浸水被害からの復旧に貢献することができた。
気候変動によって近年増えている水害に対して,このような排水設備が有効である。その中でも当社はこれまで蓄積してきた技術や経験,数値解析などにより優れたポンプを供給し,納入地域の安心・安全な生活に寄与していく所存である。
最後に今回のプロジェクトで本ポンプの納入に当たり,多大なご指導,ご協力をいただいたドバイ市をはじめとする関係各位に深く感謝の意を表する。
1) “Dubai’s 10km x 10m Storm Water Tunnel - Durability in an Aggressive Environment”. Jayapregasham Tharamapalan, PhD, P.E; Adel Ali Aljasmi; Shaikha Ahmad AlShaikh; and Fahed Ahmed AlAwadhi, 2022.
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