地球環境は、人類や地球に生息するあらゆる生物、生態系の基盤であり、企業活動は健全な地球環境無くして継続できません。
荏原グループでは、気候変動は世界が直面している重大な課題であると認識し、2019年にTCFDを支持する署名を行いました。ステークホルダーとの対話を通じて、気候変動に関する取り組みと情報開示の継続的な改善を行います。
代表執行役社長を委員長とするサステナビリティ委員会では、気候変動に関する取り組みがE-Vision2030のマテリアリティの一つとして経営の重要課題であることを経営層全員で共有し、取り組み方針、行動計画の策定と進捗管理などを行っています。
サステナビリティ委員会で審議された気候変動対応活動は、取締役会によるレビューを受ける仕組みとしています。
また、リスクマネジメントパネルは短~中期的なリスクに対応しています。
経営課題に対する行動計画の進捗管理を行う経営計画委員会では、財務面だけでなく、気候変動を含むESGに関する課題についてもモニタリングしています。
環境マネジメントの体制としては、リスクマネジメント担当の執行役を委員長とする環境統括委員会を設置し、気候変動対応を含む環境マネジメントの継続的な改善にグループ・グローバルで取り組んでいます。
気候変動が当社グループの事業に及ぼす影響を以下のプロセスで検討しました。
リスク・機会の抽出と評価
シナリオ分析
財務インパクト評価
対応策設定
中期経営計画E-Plan2022の目標年2022年と、当社長期ビジョンE-Vision2030のターゲット年2030年までに当社グループの事業に影響を及ぼす気候変動関連項目のリスクと機会を抽出し、評価しました。TCFDで示されているリスク・機会の分類により、下表の項目が当社グループの事業に一定の影響を与えると考えます。
CCUS:
Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage
CCUは回収した二酸化炭素を用いて、新たな商品やエネルギーに変える技術。
CCSは工場や発電所などから発生する二酸化炭素を大気放散する前に回収し、地中貯留に適した地層まで運び、長期間にわたり安定的に貯留する技術。
GHG:
Greenhouse Gas 温室効果ガス。
抽出・評価した気候変動関連のリスクと機会を、World Energy Outlook2019(IEA)や日本政府が公表している資料等を参考とし、TCFDが推奨する「気温上昇を2℃以下に抑えるシナリオ」を含む複数のシナリオを検討しました。
環境規制の強化、省CO2技術の進展、顧客の環境意識の高まりを受けて、省エネルギー型製品やGHGの排出抑制に寄与する製品の売上は増加する一方、一部の主要顧客の売上低迷、原料価格の上昇等事業性が悪化する要因もあると考えています。
電気自動車やデジタルテクノロジーの進化と需要の増加により、精密・電子事業が伸長すると考えています。
カテゴリー | 主な事象 | リスク | 機会 |
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政策/規制 | •製品の主用原材料である鉄鋼の価格が上昇する。 •石油に代わるエネルギー産業(LNG等)が伸長する。 |
•製造コストの増加により収益性が悪化する。 •製造工程に係るCO2排出含め環境配慮できていない従来型製品の売上が減少する。 |
•省GHG・省エネルギー型製品の売上が増加する。 •LNG関連事業が伸長する。 •精密・電子事業が伸長する。 |
技術革新 | ・CCUSの商用化、ポンプ・コンプレッサー等の省エネルギー型化・高効率化、環境負荷の低い次世代冷媒(グリーン冷媒、自然冷媒)の商用化が実現する。 ・水素・アンモニア発電技術の進展、水素製造・貯蔵技術の進展 |
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市場嗜好 | •サプライチェーンのカーボンフリー化の高まりにより、需要家から製品生産のカーボンフリー化が求められるようになる。 •省エネルギー型製品、GHGの排出抑制に寄与する製品ニーズが高まる。 •分散型エネルギー生産へシフトする。 •電気自動車の普及が拡大する。 •サーマルリサイクルニーズが減少する。 •ケミカルリサイクルニーズが高まる。 •CCUSへの関心が高まる。 •水素エネルギーへの関心が高まる。 |
2020年の延長線上に位置する世界観を想定しました。4℃シナリオによって引き起こされる売上/費用の増減の影響は低いと考えています。但し、共通シナリオの影響はあります。
カテゴリー | 主な事象 | リスク | 機会 |
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政策/規制 | •製品の主要原材料である鉄鋼の価格が多少上昇する。 •気候変動関連政策の影響を受ける主要顧客のうち、石油化学関連への影響は軽微にとどまり顧客の売上高は伸長する。 |
•税負担増加等により製造コストは増加するが、収益への影響は限定的となる。 | •2020年時点と大きな変化はなく、売上は横ばいで推移する。 |
技術革新 | •CCUSの商用化、ポンプ・コンプレッサ等の省エネ・高効率化等が停滞し、自他ともに新たな省エネルギー型製品の市場投入は進まない。 | ||
市場嗜好 | •省エネルギー型製品、GHGの排出抑制に寄与する製品ニーズは伸びるが2℃に比べると緩やかである。 •火力発電への依存が一定程度継続する。 •電気自動車の需要は伸びるものの、2℃シナリオに比べるとペースは緩やかである。 •引き続きサーマルリサイクルが国内では主流となる。 |
政策/規制は2℃シナリオ同様に強化され、顧客の環境嗜好も高まるが、技術革新が停滞し、ニーズに足る製品・サービスの市場投入が進まないシナリオを想定しました。この状況においては、当社グループの努力の範囲で達成できる省エネルギー型製品やGHGの排出抑制に寄与する製品の売上は増加すると考えています。
カテゴリー | 主な事象 | リスク | 機会 |
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政策/規制 | •炭素税の導入/上昇により、製品の主用原材料である鉄鋼の価格が上昇する。 | •製造コストの増加により収益性が悪化する。 •製造工程に係るCO2排出含め環境配慮が十分になされていない製品の売上が減少する。 |
•省エネルギー型製品やGHGの排出抑制に寄与する製品の売上が増加する。 |
技術革新 | •CCUSの商用化、ポンプ・コンプレッサ等の省エネルギー型化・高効率化等が停滞し、自他ともに新たな省エネルギー型製品の市場投入は停滞する。 | ||
市場嗜好 | •省エネルギー型製品、GHGの排出抑制に寄与する製品ニーズは伸びるが2℃以下シナリオに比べると緩やかである。 •火力発電への依存が一定程度継続する。 •電気自動車の需要は伸びるものの、2℃以下シナリオに比べるとペースは緩やかである。 •日本国内では、サーマルリサイクルが引き続き主流となる。 |
気候変動に起因する、豪雨や洪水などの物理リスクはどのシナリオにも共通して顕在化し、修繕コストの発生により事業を圧迫すると考えています。
一方、顧客が浸水などの被害を被った際には当社グループのメンテナンス需要を創出するため売上高増加につながると考えています。
カテゴリー | 主な事象 | リスク | 機会 |
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政策/規制 | •政策/規制の強化度合によるため共通事象はない。 | •当社グループの設備損傷に伴う修繕コストが増加する。 •一時的なサプライチェーン寸断による操業停止等の増加により生産性が悪化する。(コストが増加する。) •主要顧客の低迷に伴い、売上高が減少する。 |
•BCP対策や、歩留り向上(省資源)、再作業抑制など生産効率向上の観点でライフサイクル全体での省エネルギー機運が高まり、IoT、M2M関連製品・部品の需要が増し、売上高は増加する。 •一部顧客工場の損傷に伴う製品・メンテナンス需要を取り込めるため、売上高が増加する。 •防災・減災関連製品・サービスの売上高が増加する。 •生産設備の効率化により製造コストが減少する。 |
技術革新 | •生産設備の更新に伴い、当社の生産効率が向上する。 •顧客における生産革新、BCP対策(熱中症、感染症による工場停止防止)のために、工場等のオートメーション化に必要な半導体関連の需要が拡大する。 |
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市場嗜好 | •GHG多排出事業からのダイベストメントがおこり、石油需要が停滞する。石油精製など一部の顧客の売上に影響が及ぶ。 •豪雨、洪水などの物理リスクが頻発し、防災・減災に効果を発揮する製品のニーズが高まる。 |
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物理リスク | •台風・大雨・洪水等の水害により、当社工場及びサプライヤ工場の操業停止が頻発する。 •当社製品を利用している顧客(発電所・工場の生産設備、道路・上下水道の公共インフラ)の設備が水害により損傷し、設備のリプレース及びメンテナンスが必要になる。 |
M2M:
M2M:Machine to Machine 機械と機械が通信ネットワークを介して互いに情報をやり取りすることにより、 自律的に高度な制御や動作を行うこと。
ダイベストメント:
投資している金融資産を引き揚げること。
以上、4つのシナリオ分析の結果、気候変動に起因する2030年までの財務への影響を以下のように考えます。財務全体としては、いずれのシナリオにおいても大きなマイナスインパクトは現れないと予測しています。
シナリオ | 2030年までの事業への影響 | |||
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2℃以下 シナリオ |
環境規制の強化、省CO2技術の進展、顧客の環境意識の高まりを受けて、ポンプ、冷凍機、コンプレッサ・タービン、半導体製造装置などの省エネルギー型製品、CO2排出抑制に寄与する製品、ケミカルリサイクル関連の売上高は増加する。 電気自動車やデジタルテクノロジーの進化による様々な産業の高効率化需要の増加により、精密・電子事業が伸長する。 一方、製品の主要原材料費の上昇などによる製造コストの増加、GHG多排出事業からのダイベストメントによる一部の主要顧客の低迷等により事業性が低下する。 |
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中間シナリオ (技術革新が停滞する2℃シナリオ) |
政策/規制は2℃以下シナリオ同様に強化され、顧客の環境嗜好も高まるが、技術革新が停滞し、ニーズに足る製品・サービスの市場投入が停滞する。 一方、当社努力の範囲で達成できる省エネルギー型製品、GHGの排出抑制に寄与する製品の売上は増加する。 |
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4℃シナリオ | 2020年の延長線上に位置する世界であり、4℃シナリオによって引き起こされる売上/費用の増減はさほどない。 | |||
シナリオ共通 | 物理リスク(豪雨、台風、高潮、洪水、干ばつなど)がどのシナリオにも共通して顕在化する。 被災による修繕コストが発生する一方、顧客のメンテナンス需要や公共施設の災害対応が発生するため売上高増加にもつながる。 BCP対策や、歩留り向上(省資源)、再作業抑制など生産効率向上の観点でライフサイクル全体での省エネルギー機運が高まり、IoT、M2M関連製品・部品の需要が増し、売上高は増加する。 |
2020年時点の気候変動シナリオ分析の結果、2030年までの事業戦略において、以下を注視します。
また、これを見据えて2022年までの経営計画E-Plan2022に落とし込んでいます。
事業 | 2030年までの戦略 | ||
風水力事業 | 気候変動関連の規制強化、気候変動関連の規制強化に伴う原材料等の価格上昇、GHG多排出事業からのダイベストメントの進展を見据え、CCUSや水素・アンモニア発電技術の進展、水素製造・貯蔵技術など新事業への戦略の検討を要する。 | ||
環境事業 | 顧客の環境嗜好の高まりを受けて、廃プラスチックのケミカルリサイクルなど、高度なリサイクルニーズに向けた対応を要する。 | ||
精密・電子事業 | 製品のライフサイクルを通じた省エネルギーニーズから、高効率な生産体制としてIoT,M2M技術を活用したオートメーション化ニーズや、ガソリン車から電気自動車へのシフトに寄与する製品開発を進める。 | ||
当社グループの生産活動全般 | サプライチェーンのカーボンフリー化の要請を顧客から要請されることが予想されるため、製造過程で発生するCO2排出量の削減に向けた検討を要する。 |
長期ビジョンE-Vision2030及び中期経営計画E-Plan2022の策定にあたっては、中長期的な社会情勢や市場環境の変動をシナリオプランニングによって分析しています。長期的トレンドとしての変動リスク、短期的なボラタイルリスク、対面市場・当社事業別リスクを特定しています。特定した機会・リスクは、コーポレートガバナンス体制の下で管理されています。
また、リスク管理部門が定期的に行うリスクアセスメントの結果に基づき、短~中期に直面する重要リスクを特定しています。このリスクアセスメントでは、想定し得るリスク項目を整理した中から、事業責任者・部門責任者へのアンケートとヒアリングにより、リスク対応体制を再評価し、主管部門を明確にして運用に反映しています。
中期経営計画E-Plan2022において、財務面、非財務面両方の経営課題に対する行動計画を策定し、その進捗を管理するための指標と目標を設定しています。非財務面の行動計画は、気候変動を含む、環境、社会、ガバナンスに関わるリスクと機会に対する指標と目標を設定しています。サステナビリティ委員会と経営計画委員会において進捗状況をモニタリングしています。
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