荏原製作所

Vol.8 厳島神社 Itsukushima Shinto Shrine 1996年世界遺産登録(日本) 850年前(平安時代)から続く「海に浮かぶ寝殿」

厳島神社は広島県の厳島(通称:宮島)に位置し、日本三景のひとつに数えられる。中央の本殿から左右に伸びる回廊の長さは実に270m。この、平安貴族の住宅様式である寝殿造りを基礎とした荘厳で麗しい建築美が特徴だ。さらに世界遺産の登録範囲は、厳島神社の建造物群に限らず、前景の海と背後の弥山原始林を含む森林区域にまでわたる。

厳島神社※このイラストはイメージです

潮の満ち引きが建築美に変化をもたらす

厳島神社の歴史は古く、今から1400年以上前の推古天皇時代に創建されたと伝えられている。そして現在の厳島神社の原型となる社殿群が造営されたのは、平安時代後期。時の権力者である平清盛の命による。最大の特徴は、海にたたずむ朱色の大鳥居だろう。
境内は遠浅の浜にあり、干潮時には大鳥居まで歩いていくことが可能。このときの見どころに、3つの「鏡の池」がある。周辺が干潟になっているのに、社殿の前にだけ「泉」が湧いているような優美な景観を見ることができる。
そして潮が満ちると一転、大鳥居はもとより社殿や回廊まで海に浮かんでいるかのような、奇跡とも言える景色が広がる。これは、平清盛が「神の島」を足で踏むことがないようにと、海上に社を建てさせたからである。満潮時には海面が床板のギリギリまでくるように設計されており、瀬戸内海の潮の満ち引きによってその姿は刻々と変わる。
社殿の背には山岳信仰の対象であったとされる弥山。自然景観と建築美の調和が、全て綿密に計算された上で成り立っているのだ。

厳島神社

海そして自然に寄り添い、受け入れる

水上に建つ厳島神社が長年その姿を留めておけたのには、さまざまな理由がある。まずは、海底に「千本杭」と呼ばれるほど多くの松の杭を打ち込んで地盤を固めたこと。大鳥居はなんと、その杭に乗っているだけなのだ。現在の大鳥居は8代目だが、その屋根の中は空洞になっていて、砂利が詰められている。鳥居と砂利の総重量は約60トン。波や嵐に耐えられるのは、この重さのおかげなのだ。
また、社殿群を繋ぐ舞台や回廊の床の、板と板の間は、わざと隙間をあけるように敷かれている。これも重要なポイントで、高波などの際は、この板の間を水が通ることで水圧が弱まり、社殿に浮力がかかるのを防いでいる。
もう一つ特筆したいのが、本殿の前にある平舞台。ここだけは石の柱が支えているのだが、床板は柱の上に置かれているだけ。水面が上がると床板が筏(いかだ)のように浮き、高波の衝撃をたくみに受け流しているなど、本殿に荒波が押し寄せない工夫が施されている。ポンプなど排水機械のない時代に考えられた卓越した建築技術であり、四方を海に囲まれた日本において、まさに先人の知恵と言える。

厳島神社

海に浮かぶ神社ならではの工夫はここにも

厳島神社へはもともと、船を使って鳥居を通って参詣していた。なので、船底を砂にこすらないように、参道は周囲よりも掘り下げられている。この船の参道は、干潟時に見ることができる。鳥居を通るように1本の道が現れるのが分かるだろう。
このようにさまざまな工夫と知恵が詰まった厳島神社は、何度も修復・再建を重ねながら、平安の世さながらの様式を今に伝える稀有な遺産。美へのあくなき追求と、自然との調和、綿密な設計によって我々を魅了する、まるで海上にあらわれた「竜宮城」のようでもある。時の流れを忘れさせる美の世界に、人々は惹き付けられるのだ。

厳島神社

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