荏原グループ全体のものづくりを支援する拠点「Ebara Manufacturing Technology Advanced Center(以下、EMTAC)」。このEMTACでは、荏原グループ内の各事業部・拠点を“お客さま”とし、それらのお客さまが製品開発時に必要とする「試作品」を製作して届ける取り組みを行っています。掲げるキャッチフレーズは「開発試作を3日でお手元に!」。こうした活動を始めるきっかけになったのは、EMTACがお客さまの課題を聞く中で、あるポンプ製品の試作品を「短期間で作ってほしい」と依頼されたことでした。
EMTACを率いる生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部の山川貴士と、試作品プロジェクトのきっかけを作った建築・産業カンパニー 開発統括部 産業事業開発部の川﨑裕之が、その経緯やEMTACの価値を語り合いました。
<br>山川:特定の事業部に属さず、荏原グループ全体のものづくりを支援する拠点です。主な活動は2つあり、1つは各事業部のものづくりにおける悩みや課題を聞き取り、その解決を一緒になって支援します。現在、国内外17の拠点・部門と連携し、課題解決を進めています。
そしてもう1つの活動は、各事業部の製品開発で必要となった試作品を私たちがすばやく作って提供することです。
山川 貴士 生産プロセス革新・品質保証統括部 製造技術開発部
山川:EMTACを立ち上げる前から私はコーポレート組織として全社のものづくりに携わってきました。その活動の中でより事業部や会社に貢献できる形を模索していました。そこでさまざまな事業部をお客さまと捉えて、まずは悩みや課題を聞き、一緒に解決を行う組織を作ろうと考えたのです。そうして2020年に生まれたのがEMTACです。発足当時は、事業部のものづくりの課題解決の支援を行っていました。
山川:いざ各事業部を回って悩みや課題を聞いていく中で、川﨑さんの部門から試作品の製作依頼を受けたのが始まりでしたよね。
川﨑:そうですね。私たちの部門は「産業系ポンプ」と呼ばれる、工場などで使われるポンプを開発しています。ちょうどその頃、あるお客さまから新製品の試作品を短納期で作ってほしいと依頼を受けていました。時を同じくしてEMTACから開発の課題や要望を聞きたいと言われたので、試作品の製作を相談しました。通常は外部で製造していますが、私たちにとってはEMTACとの初めての協働でした。
EMTACに依頼した狙いはいくつかありました。1つは社内で作ることによるスピードアップです。内製化する分、試作品の製作から完成品の評価、手直しというPDCAを素早く回せます。全体の納期短縮も期待できるでしょう。外部ではないのでNDA(秘密保持契約)も必要ありません。
まだ世の中にない新製品の試作は、初めての形状であったり、独特な形状であったりします。そういった試作品の製造経験は貴重であり、そこから得られた製造に関する知見を社内に蓄積することは荏原全体のものづくりのレベルアップにもつながると考えました。
川﨑 裕之 建築・産業カンパニー 開発統括部 産業事業開発部
※ EGC Award:荏原の挑戦的な取り組みを表彰する全社制度(Ebara Global Challenge Award)
山川:簡単な仕事ではないと思いましたね。しかし、川﨑さんのおっしゃる通り、荏原の中で試作品を作れれば大きな価値になりますし、昔からそういった社内組織が必要という思いもありました。確かに難しい役目ですが、出来ませんと断ってしまえば会社もEMTACも進歩はなくなります。たとえ最初は苦労しながらでも、試行錯誤しながらやってみようと思いました。
もちろん製作する上ではさまざまな知識や技術が必要になりますが、EMTACにはいろいろな事業・部門でものづくりをしてきたメンバーが集まっています。多様な技術を持つEMTACの強みが生きると考えました。
川﨑:まずは少量で依頼をしたのですが、およそ1ヵ月で出来上がってきましたね。外部で製造するより早かったですし、品質も良かったです。これ以降、何度も試作品をお願いするようになり、量も増やしていきましたが、そのたびに製作スピードが上がり、納期が短くなっていきましたね。
山川:毎回依頼が来ると「次はどのプロセスを縮められるか」を考えていました。最初は1ヵ月かかっていた納期が2週間になり、10日になり・・という形です。次第に他部署からも依頼が来るようになり、この取り組みを本格的に全社展開することにしました。
せっかく全社に展開するなら、わかりやすいキャッチフレーズをつけようと考え、そこで生まれたのが「開発試作を3日でお手元に!」というものです。現在はポンプのほか、半導体関連や新規事業など、年間100件以上の試作依頼をいただいています。
川﨑:EMTACが試作品を作ることにより、製品開発のかなり早い段階からわれわれ設計者が製造側の意見を聞けるのは大きいのではないでしょうか。なぜなら製品の設計というのは、あくまで私たち設計者が頭の中で考えたもの、あるいはデータに基づいたものです。しかし製品化する際は、実際に現場で製造しやすいかどうか、簡易に作れるかどうかも重要な要素になります。それを知るには製造する人の声を聞くことが一番です。
その前提に立ったとき、EMTACは同じ社内の組織ですから、製造した際の意見を正直に、気遣いなく伝えてくれるでしょう。たとえば試作段階でEMTACから「これを現実的に作るのは厳しい」といったフィードバックがあれば、私たち設計も早い段階で手直しができます。
山川:最新製品の試作を行うことで、EMTACがグループ内の技術と技術をつなぐハブになる可能性もあると思います。先ほども話した通り、試作品は新しいアイデアや技術が取り入れられることが多く、たとえばポンプの試作品で活用した技術をEMTAC経由で別部門に展開できるかもしれません。荏原全体のものづくりのレベルアップに貢献できると思いますし、より良い製品をスピーディーに市場に投入することが可能になります。
山川:さまざまな部署からたくさんの試作依頼をいただいており、うれしい悲鳴が上がっています。なるべく短期間で試作品を届けられるように今後も努力していきたいですね。
ものづくりの基本である安全衛生、5Sへの取り組み、省エネやCO2削減を強化し、活動も進めていきカーボンニュートラルにも貢献していきます。
川﨑:若い人に伝えたいのは、どんなに小さな仕事でも、とにかくゴールまでやり抜く経験を重ねて欲しいです。1つ1つの仕事にはスタートとゴールがありますが、そのスタートとゴールは直線上に並んでいるのではなく、円のようにつながっていると私は思っています。つまり、スタートから1周してゴールにたどり着くと、実はそれが次のスタートになっているイメージです。
大切なのは、小さな円で良いので、スタートからゴールまで1周やり切ることです。せっかくスタートを切っても、途中でやめてしまうと「1周する」ということの全体感をつかめません。小さくても1周してまたスタートに戻れば、次はもう少し大きな円を描けるのではないでしょうか。その繰り返しだと思います。
山川:私も似ていますが、若い人には物事を簡単にあきらめずチャレンジして欲しいと思います。たとえ難しくても、その場で「出来ない」とやめてしまったら得られるものはありません。やってみること、すぐにあきらめず、人に相談したり、何の要素があれば出来るかを考えることが大事だと思います。
川﨑:試作品の取り組みも、あのとき山川さんが「出来ない」と言わずにやってくれて大きくなったわけですからね。簡単にあきらめず、小さくてもやりきることが、ものづくりにおいて何よりも大切ではないでしょうか。
山川 貴士(生産技術)
生産プロセス革新・品質保証統括部
川﨑 裕之(開発・設計)
建築・産業カンパニー
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