工場座談会 ものづくり技術人:前編



ものづくりに挑む人、
それぞれの「熱と誠」を語り合う。
たゆまぬ緻密さの追求

製品が違っても、
お客様満足度と社会への貢献への追求は変わらない。
荏原のものづくりを担うリーダーたちが語る。

荏原の長い歴史を支えてきた、ものづくりを担うリーダーたち。富津工場、藤沢工場、袖ヶ浦工場の3工場のリーダーが集まり、前後編にわたって座談会を実施。テーマはものづくりに対する各人の“熱と誠”について。また、自動化やIoTなど、ものづくりの進化についても意見交換。前編では、ものづくりに対するそれぞれの“熱い思い”を掘り下げます。

世界でも数少ない設備を用いて、口径数mの大型ポンプを作り上げる

※ポンプの吸込口または吐出口の直径

——座談会は、メンバー全員が富津工場に集まって行われました。まずはインフラを支える大型製品を製造する工場内をじっくり見学し、会場へと移動しました。座談会が始まると、藤沢のメンバーから富津メンバーに対する率直な感想が聞かれました。

中山 貴昭(藤沢/精密)
中山 貴昭(藤沢/精密)




大島(藤沢):富津工場では扱っている製品の大きさがとにかく凄くて、言葉が出ませんでしたね。

中山(藤沢):藤沢工場とは製品の大きさが全然違いますし、ひとつの製品を完成させたときの達成感はすごいんだろうなと思います。

——富津で作る製品は、“大型ポンプ”と呼ばれる水道水配水用やパイプライン用などが中心。対して、藤沢で作るドライ真空ポンプは、“量産型ポンプ”という、小型のポンプが主となります。大きさは桁違いです。

渡邉 和則(富津/インフラ)
渡邉 和則(富津/インフラ)




渡邉(富津):富津では口径数mのポンプも生産するため、工作機械はさらに大きくなります。なかにはポンプを載せるテーブルが一辺約30mの機械も。価格も高額で、現在の価格で1台数億円のものもありますね。貴重な機械だからこそ、20年、30年と使うケースもあり、日々のメンテナンスも重要な仕事。地味な作業ですが、点検は欠かせません。

須田:地味とおっしゃいましたが、そういった日々の保全作業により、荏原は日本に数台しかない機械、設備をいくつも保有しています。まさに日々の努力の賜物ですよね。

——富津と同じように、袖ヶ浦も大型製品が中心の工場。従って、機械も同様に大きなサイズとなります。

風見(袖ヶ浦):2013年に導入した機械は、当時では世界で数台しかない機械と言われたのを思い出しました。大きな機械はあちこちにあるわけではないですし、荏原の自慢です。大型のものづくりをしたい人にはいい環境だと思います。

古川(袖ヶ浦):あの大きさを間近で見ると、自分たちの作ったものが社会を支えていると実感できるはずですよ。それが良い意味で現場で働く人のプライドになっていますよね。

——富津や袖ヶ浦で作る大型製品は、完成に数ヶ月を要すことも少なくありません。一方、藤沢は小型製品を量産するケースが基本です。

中山(藤沢):私たちの課は、ドライ真空ポンプの量産を担当しています。異変や故障が起きたらすぐに共有・対処しなければ、多くの製品に影響が出てしまいます。

——作る製品のサイズや生産量が違うと、工場の設備・機能も異なってきます。たとえば藤沢では、量産型だからこそ「自動化」に注力。その詳細については、後編記事で触れます。

マイクロレベルの精密さが、ドライ真空ポンプの性能を生む

——富津の感想を話した後、座談会の話題は「ものづくりのこだわり」に。それぞれのメンバーは、日々何にこだわってものづくりをしているのでしょうか。

西山(藤沢):一番のこだわりはμm(マイクロメートル)レベルの精密な加工です。藤沢で作るドライ真空ポンプは、ケーシングの中でローターが非接触で回転する構造。このとき、ケーシングとローターの隙間(クリアランス)がポンプ性能に直結します。数十μmレベルの隙間が求められますが、狭すぎると、ポンプ回転時の熱でローターが伸びた際に当たってしまう。低い温度から数百℃の高温まで、どの状態でも隙間が保たれ、かつ高いポンプ性能を出す為に、高精度な加工が必要となります。

中山(藤沢):こういった作業で難しいのが、実物は決して“平ら”にならないことです。図面上は平らに描かれていても、μmレベルで見ると平らではない。一つ一つ形状は変わります。製造前の設計で書かれた数字と、その後の製造工程の人間が見る数字、あるいは寸法公差(※図面の寸法に対し許容できる誤差の範囲)は違うんですね。それを調整していくのが私たちの仕事。作る製品は同じでも、毎回開発しているイメージです。

前田 孝司(富津/インフラ)
前田 孝司(富津/インフラ)



前田(富津):私たちが作る大型ポンプも、調整しながら進めていくのは同じですね。製品そのものが重いので、作っているうちに自重で歪んでしまうので、その歪みを平らな状態にしてから組立作業を行っています。

渡邉(富津):だからこそ、加工するときは基本的に完成品を使用するときと同じ置き方で加工します。製品の向きを縦・横に変えて加工する方法もありますが、私たちの場合、基本は完成形と同じ向きで行いますね。なぜなら重力を考慮しないといけませんから。これは大きい製品ゆえかもしれません。

——作る上で考慮しているのは“寸法”や“形”だけではありません。“材質”にもこだわります。たとえば大型ポンプの場合、海水の吸水排水などに使われるケースも多数。そこで荏原では、地域ごと適切な材質を使うために海水腐食試験を行っています。

渡邉(富津):ポンプを使う場所によって、海水の塩分濃度や水温が変わりますよね。荏原では世界各地の海水で腐食性を調査し、データを取っていたと思います。私の記憶では、30年ほど前にやっていましたかね。そういう話を聞いて、この会社のこだわりはすごいなと思いました。
 

——そしてもうひとつ、富津で心掛けているのは「安全第一」であること。

前田(富津):富津は製品のスケールが大きく、建設現場みたいなもの。だからこそ安全第一なんです。その上で行うダイナミックなものづくりは大きなやりがいですね。

「お客さまは鉄の塊を買っているんじゃない。性能を買っている」

——袖ヶ浦も、大きなものづくりを行うのは同様。だからこそ、その地で製品と向き合い続けてきた人からは、こんなやりがいが聞かれました。

風見(袖ヶ浦):製品も機械も大きいからこそ、ここでしか作れないものばかり。他でやろうとしても出来るところは少ないし、一方でわれわれ機械加工はわずかな失敗ですぐ不具合になります。だからこそ緊張感を持って仕事に向かっていますよね。

古川(袖ヶ浦):1つの製品に2、3ヶ月かかることも当たり前。送り出すときは「行ってこいよ」という思いです。もちろん、自分達の作ったものがお客さまの求めるパフォーマンスを生んだときは達成感がありますね。
昔、先輩から言われたんです。お客さまは鉄の塊を買っているんじゃない。荏原の性能を求めて買っている。大きかろうが小さかろうが、性能で満足させるものを作らなければいけないんだ、と。

——お客さまが求めるものを作り上げる。その熱があるからこそ、一品一品へのこだわりが生まれるのかもしれません。そんな思いは、他の人からも聞かれました。

前田(富津):綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、すべてはお客さまのためですよね。もちろん、働いていればつらいこともあります(笑)。トラブルがあり、2、3日はお客さまにつきっきりで修理することも少なくない。ただ、直したときにすごく感謝されたり、その体験談を先輩から聞いたり。それが原動力になっていくんです。

中山(藤沢):私は工場だけではなく、お客さまの工場で装置の立ち上げも経験しました。装置を立ち上げたとき、依頼主であるお客さまが本当に感謝してくれ、とても嬉しかったです。ただ、ものづくりの現場にいると、お客さまの声を直接聞く機会が少ないのも事実。モチベーションになるからこそ、その声がもっと現場に届く仕組みがあるといいですね。

——ものづくり現場におけるお客さまは「製品を届ける相手」だけとは限りません。

大島 英士(藤沢/精密)
大島 英士(藤沢/精密)




大島(藤沢):私たち生産技術にとって、生産現場で働く方々もお客さま。その意識を持って、現場の要望に全力で応えようとしています。だからこそうれしいのは、要望をもとに改善を重ね、目的を達成したとき。一緒に喜べる仲間がいることにやりがいを感じますし、人と人とのつながりを大事にしているので、現場に足を運んで会話することを心がけています。

須田:同じものづくりに励む人でも、一人一人が思い浮かべるお客さまがいて、それぞれのこだわりをもとに製品を作っているということですよね。荏原には「熱と誠」という創業の精神がありますが、荏原のものづくりを牽引されている皆さんが自分なりの「熱と誠」を実践されていて噛み砕いて、日々、荏原グループのものづくりと向き合っていることを強く感じました。

——このような話を経て、座談会の前編は終了。次回は藤沢に場所を移し、同じメンバーが「ものづくりの進化」や「荏原で目指すものづくりの未来」について意見交換。工場の自動化やIoT、データ活用の現状にも焦点を当てていきます。




社員インタビュー