徳江 隆
風水力機械カンパニー 標準ポンプ事業部
私たちは,生活の中で当たり前のように水を使用していますが,水を利用するためにはポンプの力が必要です。例えば,浄水場で作られた上水は,配水ポンプにより私たちの所まで届けられます。また,オフィスビルやマンションでは,増圧ポンプや排水ポンプが使われています。ここでは,皆さんが普段気付かない身近なところで働いているポンプを紹介します。
図1は当社の標準ポンプ事業が扱っている標準ポンプの製品例を示しています。普段の生活の中で,これらのポンプの姿を見かけることはほとんどありません。しかし,ポンプは日常生活や工場などの生産活動における様々なシーンで利用されています。
図1のポンプは国内外の著名なスポットで使われているものです。ここでは,これらの納入先をいくつか紹介します。
図1 標準ポンプの製品例
◆六本木ヒルズ森タワー
六本木ヒルズのシンボルとなっている森タワー(図2)は,地上54階建て,高さ238 mの超高層複合オフィスビルです。
ここでは,大小合わせて100台以上の当社製ポンプが活躍しています[図1(a),(b)]。用途は大きく二つに分けられ,一つは衛生用として飲料水やトイレの水を送り出し,もう一つは空調用としてビル内の温度調整のため冷水や温水を送り出します。森タワーへの来訪者やそこで働く従業員が快適に過ごせるように,また,IT機器の温度調整を持続的に行えるように,ポンプは24時間稼働しています。
また,ポンプの定期メンテナンスも当社が行います。ポンプの摩耗状態などを確認し,必要に応じて消耗品パーツを交換します。これによって,安全・安心な毎日を支えています。
図2 六本木ヒルズ森タワー
◆コロッセオ(イタリア)
2013年に実施されたローマの古代遺跡コロッセオ(図3)の修復プロジェクトの一環で,外壁洗浄用の高圧ジェットポンプとして,立形多段ポンプEVMG型[図1(c)]のブースタセットが使用されました。コロッセオの本格的な修復は1939年以来,73年ぶりの大修復工事でした。表面をこするのではなく高圧水を噴射し,凹凸に入り込んだ長年堆積した汚れを飛ばして除去しました。これによって,自然の色味の外壁に戻すことができました。
このポンプは,建築設計や遺跡の修復工事を専門とする建設業者に納品したもので,コロッセオでの修復工事終了後も,イタリア国内にある様々な世界遺産の洗浄用として使用されています。
図3 コロッセオ
◆沖縄美ら海水族館
国営沖縄記念公園海洋博覧会地区にある沖縄美ら海水族館(図4)は総水量約10000 m3の水槽規模を有しています。全長8.7 mものジンベエザメや世界最大のエイの一種であるナンヨウマンタをはじめ,多種多様な魚たちが泳ぐ世界最大級の「黒潮の海」大水槽(水槽容量7500 m3)や自然光を取り入れ約70種800群体ものサンゴを飼育展示した「サンゴの海」水槽(水槽容量300 m3)等,総展示槽数は77槽にもなります。
これらの水槽において,沖縄周辺の海を再現するには,新鮮な海水の供給が欠かせません。また,生物を取り扱う環境では,装置のトラブルが致命的となるため,高い信頼性が必要になります。この実現のため,水槽の海水の循環用や配水用として45台以上の樹脂製渦巻ポンプFPS型[図1(d),図5]が採用されています。この樹脂製渦巻ポンプは,熱硬化性樹脂を採用し,酸・海水等ステンレスが浸される液体に対して,特に優れた耐食性をもっています。また,ガラス繊維強化をしていないので焼却処分が可能であり,環境に配慮したポンプとなっています。
このように,当社の標準ポンプは,世界の暮らしの中で活躍しています。
図4 国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館
図5 沖縄美ら海水族館内の樹脂製渦巻ポンプ(FPS型)
次に,当社標準ポンプの主な用途について説明します。
(1)建築設備用ポンプ
オフィスビルやマンションなどの建築設備では図6のように様々なポンプが働いています。
①衛生用
上水道の圧力では高い所まで給水できなければ増圧したり,水を一斉に使って水圧が低くなるのを防ぐためポンプの回転速度を制御して最適な圧力で給水をしたりするため,「給水ポンプユニット」が働いています。
この他にも,入浴・洗面・調理などにお湯がすぐ使えるようにする「給湯ポンプ」,トイレの汚水・雨水などを下水道に送る「汚水排水,雑排水,汚物排水用水中ポンプ」などがあります。
②空調用
大型の建物では中央空調システムによって,建物全体の空気の温度・湿度・清浄度などを調節しています。冷凍機やボイラで作られた冷(温)水を「冷(温)水ポンプ」が空気調和機などに送り出し,冷(温)風を作り出すのに貢献しています。
③消火用
消火設備に水を送る「消火ポンプユニット」は,建物の初期消火を目的として設置されるポンプです。建物の規模によって消防法によりその設置義務が定められています。消火設備には,スプリンクラー設備,屋内消火栓設備,屋外消火栓設備,泡消火設備,水噴霧消火設備などがあります。
(2)上下水道用ポンプ
河川などの水源から浄水場に水を汲み上げるために「取水ポンプ」が働いています(図7)。水を汲み上げるためにはポンプが欠かせません。また,浄水場などから各家庭に水を送る「配水ポンプ」は,数十km先まで届くように,水に圧力を加えて送り出しています。
この他にも,使った水を下水処理場に送る「汚水中継ポンプ」や下水処理場内で使用する「汚水ポンプ」などがあります。
(3)産業用ポンプ
工場などの生産設備において,化学液・冷却水を移送・循環するユーティリティ向けにも様々なポンプを納入しています。他にも,小規模発電用(ごみ焼却処理施設など)ではボイラに高圧水を送る「ボイラ給水ポンプ」などがあります。上下水道用や建築設備用のポンプと大きく異なる点は,取り扱う液体の種類の多さにあります。液体の種類により比重や粘度などの性状が異なるので,各々の性状に最適なポンプを選ぶ必要があります。
様々なポンプを紹介しましたが,取扱液,圧力,流量,設置方法はそれぞれ違うので,数多くの種類のポンプが必要です。このような多岐にわたる用途でも,当社の標準ポンプ製品は,カタログやハンドブックから標準品(既製品)として選定できるように,幅広くラインナップしています。
図6 建築設備機器
図7 上下水道施設
標準ポンプは,モータ直結形から直動形へ,4極誘導モータから2極モータへ,さらにはインバータ,永久磁石型同期電動機(PMモータ)による増速化や小形・低価格化の促進,近年では,IoTやICT技術の導入など,日々ニーズが多様化しています。
当社は100年を超えて研究開発を続けてきた流体力学分野において,流れ解析や3次元逆解法等を駆使した世界トップレベルの高効率・高性能を実現するハイドロ設計技術など数多くの技術をもっています(図8)。近年では,ポンプ効率や性能向上を図りつつ,軸スラスト荷重を低減させた独自形状の羽根車を開発しています(図9)。さらに,高度な磁界解析(図10)により実現したPMキャンドモータに代表される小型化技術や,省エネルギー効果と快適な使用環境を提供するセンサ・コントローラによる最適化制御技術など,メカトロニクス分野においても様々な独自技術をもっています。それらを高次元で融合させることで,ポンプ単体だけに留まらず,システム機器まで含めた多くの製品において,多様なニーズに応えています。
図8 ポンプ内部の流れ解析
図9 荏原独自の羽根車形状
図10 PMモータの磁界解析
2019年度を最終年度とする中期経営計画「E-Plan2019」において,標準ポンプ事業は,グローバル市場において,ポンプ事業の収益のベースと位置づけられています。国内事業の構造改革により収益性を改善したうえで,グローバル市場での成長を図ることを目標とし,基本方針を以下としています。
1)既存機種の統廃合を進め,管理コストの削減を進めるとともに,製品リードタイムの短縮と製造原価低減を進めます。
2)従来の生産体制を抜本的に見直す。IoT,AI,ロボティクスを活用した自動生産ラインを構築し,製品リードタイム短縮と製造原価低減を実現することにより,製品競争力を強化します。
3)生産・販売の業務システムを刷新し,業務の効率化を進めます。
4)グローバルに販売を進める新製品と地域固有のニーズを反映した新製品を継続的に投入します。
これらの達成に向け,グローバル基幹製品や各地域の顧客ニーズに合わせたリージョナル製品の開発,さらに,自動生産ライン構築に向けた生産・製造・組立方法の見直しや,Salesforce※やRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)の導入など継続的な業務の刷新に取り組んでいます。
※Salesforceは,クラウドベースの顧客管理・営業支援システムであり,Salesforce.com, inc.の登録商標です。
標準ポンプ事業について
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム