蒲池 一将* Kazumasa KAMACHI
本間 康弘** Yasuhiro HOMMA
鈴村 悟** Satoru SUZUMURA
*
水ingエンジニアリング㈱
**
水ingAM㈱
下水に含まれる栄養塩除去を目的とした高度下水処理施設では,微生物による硝化・脱窒反応を用いた窒素除去方法が採用されている。近年,空気量制御には従来の溶存酸素計に加えて,アンモニア計を利用する事例が増えている。本報告ではアンモニア計による空気量制御を行っている嫌気-硝化内生脱窒法を適用した実施設データを基に,活性汚泥モデルを用いたシミュレーションを用いて最適条件の検討を行い,硝化内生脱窒法におけるアンモニア計による空気量制御の特徴を明らかにした。
The biological nitrogen removal process is usually adopted for nutrient removal from sewage as the advanced wastewater treatment. Recently, in addition to the conventional dissolved oxygen sensors, ammonia sensors have been utilized more and more to optimize the aeration and decrease the operational cost. In this study, based on the operational data in a full scale sewage treatment plant, where ammonia sensors were used in the anaerobic/nitrification/endogenous-denitrification process, the optimized operational parameters were investigated by the simulation with activated sludge model, and the characteristics of aeration optimization by using ammonia sensors were revealed.
Keywords: Sewage treatment, Nitrification/endogenous-denitrification, Activated sludge model, Ammonia sensor
湖沼や閉鎖性海域では,栄養塩である窒素やリンが過大に流入することで富栄養化となり,植物プランクトンが増殖することで,赤潮や青潮の原因となる。そのため,下水に含まれる栄養塩除去を目的とした高度下水処理施設では,窒素除去方法として微生物による硝化・脱窒作用による窒素除去方法が採用されている。代表的な窒素除去方法として,循環式硝化脱窒法,ステップ流入式多段硝化脱窒法,硝化内生脱窒法がある。
また,近年では二酸化炭素の298倍 1)の温暖化係数をもつ一酸化二窒素(N2O)が注目されている。下水道事業における温室効果ガスの発生量のうち水処理工程でのN2Oの発生量は約10 %(CO2換算)とされ 2),削減が求められている。N2Oの発生量は,窒素除去が行われている処理プロセスでは少ないとされ 3),温室効果ガスの発生抑止の観点からも下水の高度処理が必要とされている。
硝化内生脱窒法は硝化工程のあとに脱窒工程が続く処理フローであり,脱窒反応に必要な水素供与体を外部から添加せず,活性汚泥に吸着された有機物や,細胞内に蓄積された有機物を水素供与体として利用する方法である。この処理方法は循環式硝化脱窒法より長い処理時間が必要とされるが,硝化液循環に必要なポンプが不要となることや,窒素除去率の向上が期待されるため一部施設に適用されている 4)~8)。
従来,実験や実施設を用いた様々な条件での下水処理の検討には多くの時間と費用を要するため,検討条件数は制約されていた。そのため,安全サイドの運転条件を行う必要があり,コスト増加の一因ともなっていた。活性汚泥モデル(Activated Sludge Model, ASM)とは,国際水協会(IWA)により提唱された活性汚泥における生物反応を数式で表したモデルである9)。ASMの適用により,任意の施設構成や運転条件についての再現が可能となるため,プロセスの挙動を予測・解析が可能となる(表1)。したがって,経験のみに頼らない運転が可能で,運転方針決定時の意思疎通を円滑に行うことができる。日本国内においても日本下水道事業団による実務利用の技術評価が行われ10),良好な処理水質や省エネルギーを目的とした運転方法の最適化や,増設・改築更新時の設計流入水量・水質に応じた設計検討にASMを適用した報告が多くなされている 11)~13)。
従来の代表的な空気量制御方法として,曝気槽に溶存酸素計(DO計)を設置し所定のDOを保持するように空気量を調整する方法が挙げられる。近年,直接曝気槽内に浸漬して連続測定が可能なイオン電極式アンモニア計の機能向上が進み 14),硝化の進行を直接検知することができるようになり,DO計に替わる空気量制御手段として下水処理プロセスへの適用が進められている。アンモニア計を用いた空気量制御方法として,好気槽末端付近にアンモニア計を設置し好気槽での完全硝化を行う例 11),12),15)や,上流側にアンモニア計を設置しフィードフォワードで制御を行う例が報告されている 16)。
本報告では,硝化内生脱窒法におけるアンモニア計を用いた空気量制御について,活性汚泥モデルを用いたシミュレーションによる最適条件について報告する。
用途 | ASMの利活用例 | 従来の手法 | ASM利活用の効果 |
設計支援 | ・処理方法や処理フローの比較検討(既存施設の高度処理化,ステップ流入比の検討等) ・流入水量や流入水質の変化に対する処理水質の予測(施設建設計画,改築更新計画,高濃度流入の検討等) |
経験的に縛られた設計緒元に基づく容量計算 ↓ ・十分な余裕をもった設計(各施設にとって必ずしも最適な設計とは限らない) |
各施設固有の条件を考慮した定量的な評価が可能 ↓ ・設計緒元の最適化 ・既存施設の有効利用 |
・適用例の少ない処理プロセスの評価 | 実験や実施設を用いた検証 ↓ ・多大な検討時間と費用 ・検討ケースが限られる |
様々な条件下でのシミュレーションが可能 ↓ ・検討時間と費用の短縮 ・選択肢の多様化 |
|
運転管理支援 | ・運転条件の最適化 ・処理水質の悪化等の異常時における対応 ・省エネルギー運転を行う場合の処理水質の検討 |
木曽川及び長良川流域(4市6町)の下水が流入する分流式下水道の木曽川右岸流域下水道 各務原浄化センターの2系にて実測調査を行った(図1)。対象とした2系の処理能力は,日平均汚水量7333 m3/(日・池),日最大汚水量9000 m3/(日・池),公称容積5482 m3/池であり,嫌気-無酸素-好気法(A2O法)にて設計された施設である。一部系列において硝化液循環を停止して嫌気・好気・無酸素・好気とした嫌気-硝化内生脱窒法(AOAO法)を適用している。
対象施設の生物反応槽は隔壁によって8槽に分割されており,いずれも各槽は水中撹拌機を用いて撹拌している。A2O法(2-B系列2-7池)の反応槽は,生物学的リン除去を行う嫌気槽,脱窒を行う無酸素槽,BOD除去及び硝化を行う好気槽の順に,AOAO法の反応槽(2-A系列2-1池,2-B系列2-5池)は,生物学的リン除去を行う嫌気槽,BOD除去及び硝化を行う好気槽,内生脱窒を行う無酸素槽,残存アンモニアの硝化を行う好気槽の順に配置されている(表2)。ここでの容量は水槽内の構造物を考慮した実容量を示している。各系列の処理水は無機凝集剤(PAC)を添加後,砂ろ過で残存したリンを除去した後に放流されている。
2-1池及び2-7池の空気量制御はDO計,2-5池はイオン電極式センサーを備えたアンモニア計を用いている(図2)。空気量の制御は,計器測定値と設定値の差異を風量調節弁の動作時間として出力することで調節している。風量調節弁は各池の元にあり,各好気槽での空気量調整は手動弁を開度一定で固定している。
水槽 | 容量 | 対象系列 | 2-A系列 | 2-B系列 | |
2-1池 | 2-5池 | 2-7池 | |||
処理方法 | AOAO法 | AOAO法 | A2O法 | ||
空気量制御 | DO計 | アンモニア計 | DO計 | ||
硝化液循環 | なし | なし | No.8→No.3 | ||
No.1 | 397 m3 | 嫌気 | 嫌気 | 嫌気 | |
No.2 | 582 m3 | 嫌気 | 嫌気 | 嫌気 | |
No.3 | 582 m3 | 好気 | 嫌気 | 無酸素 | |
No.4 | 582 m3 | 好気 | 好気 | 無酸素 | |
No.5 | 556 m3 | 無酸素 | 好気 | 好気 | |
No.6 | 635 m3 | 無酸素 | 無酸素 | 好気 | |
No.7 | 688 m3 | 無酸素 | 無酸素 | 好気 | |
No.8 | 688 m3 | 好気 | 好気 | 好気 | |
合計 | 4710 m3 |
図1 対象施設
図2 アンモニア計
シミュレータは市販のソフトを使用し,IWAの活性汚泥モデルASM2dを用いてシミュレーションを行った。実施設と同様に8槽の完全混合槽と最終沈殿池を組み合わせたプロセスモデルを作成した(図3)。最終沈殿池では脱窒によるNO3-Nの減少が見られたため,返送汚泥ラインに仮想無酸素槽を設置して脱窒過程を再現できるようにした。なお,今回使用したソフトでは酸素移動モデルとして総括酸素移動容量係数(KLa)を用いたKLaモデルを採用し,空気量は相関するKLaで表されている。
図3 プロセスモデル
原水分画データ,流入水量は実測調査の結果を採用し,調整したパラメータを採用した 17)。最終沈澱池で脱窒による返送汚泥のNO3-Nに合うよう仮想無酸素槽の容量を200 m3とし,好気槽から嫌気槽への逆混合は嫌気槽流入水の20 %に設定した 17)。流入水の有機物分画は,物理化学的方法である凝集ろ過法にて行った 18)。
シミュレーション結果の評価は,No.8槽の無機態窒素(NH4-N,NH4-N+NO3-N)とした。〔2〕ではフロー変更による空気量増減を確認するため,各槽のKLaの合計を加えた。なお,NH4-Nについては1.0 mg/L以下を基準とした。
〔1〕水温条件によるNH4-N最適設定値
実施設と同様の処理フロー(表3,処理フロー 1)でアンモニア計のNH4-N設定値におけるNo.8槽のNH4-N,NO3-Nと各槽のKLaの合計について検討を行った。水温は,高水温期,中水温期,低水温期の3条件とし,それぞれ25.5 ℃,22.0 ℃,18.0 ℃とした。生物反応槽のMLSSは実施設の代表的な運転条件に合わせて,それぞれ1800 mg/L,2000 mg/L,2300 mg/Lとした(表4)。返送汚泥量は,実施設の運転条件に合わせて水温期によらず流入水量の50 %とした。余剰汚泥引抜量は,No.8槽のMLSSが所定値となるように,各シミュレーション条件において適宜調整した。No.5槽のNH4-N濃度が所定値となるように,No.4槽とNo.5槽に空気供給を行い,KLaはNo.4槽:No.5槽=1:0.4の比とした。No.8槽についてはDO 1.0 mg/Lとなるようにした。なお,各シミュレーション条件の平均流入条件に対して0.05日刻みで100日間運転した定常計算結果を用いた。
〔2〕低水温期における処理フローの検討
低水温期における処理水質改善を目的に処理フロー変更による検討を行った(表3)。処理フロー1は検討項目1と同条件とした。処理フロー2では好気槽の数を増やすことで好気槽内での硝化と脱窒の同時進行促進を検討し,処理フロー3では内生脱窒槽の数を増やすことで内生脱窒による脱窒の促進について検討を行った。処理フロー2のKLaはNo.3槽:No.4槽:No.5槽=1:0.5:0.4に,処理フロー3ではNo.3槽:No.4槽=1:0.4の比となるように設定した。これ以外の条件は検討項目〔1〕と同じとした。
処理フロー1 | 処理フロー2 | 処理フロー3 | |
No.1槽 | 嫌気 | 嫌気 | 嫌気 |
No.2槽 | 嫌気 | 嫌気 | 嫌気 |
No.3槽 | 嫌気 | 好気 | 好気 |
No.4槽 | 好気 | 好気 | 好気※ |
No.5槽 | 好気※ | 好気※ | 無酸素 |
No.6槽 | 無酸素 | 無酸素 | 無酸素 |
No.7槽 | 無酸素 | 無酸素 | 無酸素 |
No.8槽 | 好気 | 好気 | 好気 |
※アンモニア計の設定位置
水温 ℃ |
MLSS mg/L |
SRT d |
NH4-N[No.5] mg/L |
|
高水温期 | 25.5 | 1800 | 15~18 | 2~8 |
中水温期 | 22.0 | 2000 | 18~24 | 2~8 |
低水温期 | 18.0 | 2300 | 20~24 | 2~8 |
2-2-3〔2〕の結果を反映し,内生脱窒槽の数を2015年6月に2槽から3槽に増やした(処理フロー1→処理フロー2)。変更前後の2014年4月から2015年5月までの各月の最終沈澱池処理水の水質(NH4-N,NO3-N)を分析した。
調査時の各水温期における運転条件及び流入水質の平均値を表5に示す17)。流入水量は高水温期に最も多く,また返送汚泥量及び余剰汚泥引抜量は高・低水温期では同等であったが中水温期では少なく設定されていた。空気量は高・低・中水温期において大きな変化はなかった。
調査時期 | 高水温期 | 中水温期 | 低水温期 | ||
2011/9/13-9/14 | 2012/10/31-11/1 | 2012/2/22-2/23 | |||
流入水質 | 水温 (流入水) |
℃ | 26.3 | 23.7 | 17.3 |
BOD | mg/L | 82 | 94 | 122 | |
CODCr | mg/L | 171 | 198 | 218 | |
NH4-N | mg/L | 14.2 | 18.2 | 19.4 | |
PO4-P | mg/L | 1.5 | 1.6 | 1.4 | |
運転条件 | 流入水量 | m3/(日・池) | 8645 | 7340 | 7185 |
返送汚泥量 | m3/(日・池) | 3279 | 1797 | 3310 | |
余剰汚泥 引抜量 |
m3/(日・池) | 60 | 44 | 60 | |
空気量 | m3/(日・池) | 23276 | 23584 | 22874 | |
MLSS | mg/L | 1960 | 1670 | 3050 | |
HRT | hr | 13.1 | 15.4 | 15.7 | |
SRT | d | 20.8 | 20.7 | 31.7 |
A2O法とAOAO法の系列について好気槽(No.8槽)における水質,及び曝気風量,循環水量の相対比について図4に示す。いずれの水温期においてもほぼ完全に硝化しておりNH4-Nは0.2 mg/L以下であった。AOAO法のNO3-NはA2O法より0.1~1.9 mg/L減少したが,PO4-Pは0.1~0.4 mg/L増加した。曝気風量はA2O法より21~29 %,循環水量は100 %削減することができた。AOAO法はA2O法と比較してほぼ同等の処理水質を得ることができ,曝気風量の削減と循環ポンプの停止が可能となった。
図4 A2O法とAOAOの比較<sup>19)</sup>
2014年7月17日~18日の実測調査結果による原水データを用い,高水温期,処理フロー1,No.5槽NH4-N設定値を4 mg/Lとした条件で,ダイナミックシミュレーションを行い,水質の経時変化を求めた。原水データは1時間ごとの水量と水質を割り当て,水質データのない時間は前後の分析値から補間した。ダイナミックシミュレーションは0.05日刻みで30日間分の計算を行った。
図5に17:00及び13:00の槽別のNH4-NとNH4-N+NO3-N計算値,実測値を示す。各時刻ともに,NH4-NとNH4-N+NO3-Nの挙動は概ね一致し,無酸素条件における内生脱窒が再現されていた。No.8槽の17:00のNH4-Nは実測値:0.2 mg/L,計算値:1.1 mg/L,13:00の実測値:0.6 mg/L,計算値:0.7 mg/Lで最大0.9 mg/Lの誤差であった。同様に17:00のNH4-N+NO3-Nは実測値:5.8 mg/L,計算値:5.9 mg/L,13:00は実測値:5.1 mg/L,計算値:4.2 mg/Lで最大0.9 mg/Lの誤差であった。シミュレーションは平均流入条件に対して行うため,これらの誤差は支障のない範囲であると判断した。
図5 実測値と計算値の比較
アンモニア計の点検時(1箇月ごと)における測定値と分析値の関係を図6に示す。点検はアンモニア計を浸漬している実液,及びメーカー標準液を処理場の放流水で希釈したもの(目標NH4-N 10 mg/L)を標準液として使用した。分析値と比較してアンモニア計の測定値は若干低い傾向が見られたが,相関係数は高く,測定値と分析値の間に十分な直線性があることを確認した。
図6 アンモニア計における測定値と分析値の比較
〔1〕NH4-N最適設定値
No.5槽NH4-N設定値ごとのNo.8槽の水質を図7,表6に示す。いずれの水温期もNo.5槽NH4-N設定値の増加に伴いNo.8槽のNH4-Nが増加傾向を示したが,No.8槽NH4-N+NO3-Nを最小とするNo.5槽NH4-N設定値の範囲が存在した。No.8槽NH4-N+NO3-Nを最小とする付近のNH4-N+NO3-Nの変化は比較的緩やかであったが,No.5槽NH4-Nの最適設定値は,高水温期:4 mg/L,中水温期:5 mg/L,低水温期:6 ㎎/Lであった。最適設定値におけるNo.8槽NH4-N+NO3-Nは,それぞれ4.9 mg/L,6.8 mg/L,8.1 mg/Lであった。
No.5槽NH4-N設定値の最適値が存在するのは,過剰に硝化させると,内生脱窒に必要な有機物を消費させてしまうためと考えられる。すなわち,好気槽での硝化を抑制することで,同時に有機物の分解も抑制することが可能となり,無酸素槽での内生脱窒が進むことを示している。
また,水温が高いほどNo.5槽NH4-N最適値が低く,水温期によって異なる最適設定値があることが判明した。水温が高いと好気槽で硝化を進行させても,無酸素槽で脱窒が進んだことが要因として考えられる。
〔2〕槽別の水質挙動
各水温期の最適条件における水質挙動を図8~図10に示す。全ての水温条件において,無酸素槽であるNo.6槽とNo.7槽にて内生脱窒により,3.4~3.6 mg/LのNO3-Nの減少が確認された。
好気槽であるNo.4槽とNo.5槽にてDOが0.5 mg/L以下と低いため,硝化と脱窒が同時進行し,NH4-N+NO3-Nが減少する特徴があった。また,No.4槽とNo.5槽で減少したNH4-N+NO3-Nは,高水温期:4.3 mg/L,中水温期:3.8 mg/L,低水温期:1.1 mg/Lであり,水温が高いほど好気槽の脱窒で除去されることが分かった。
アンモニア計により好気槽で適切なNH4-Nを残留させた状態が,好気槽を低DO状態とし,硝化脱窒が同時進行したと考えられる。
〔3〕DO計とアンモニア計の比較
各水温期のNo.5槽NH4-N設定値とDOの関係を図11に示す。NH4-N最適設定値付近ではNo.5槽DOは0.1~0.3 mg/Lと低い値であった。中水温期の例では,No.5槽NH4-N:4~6 mg/Lにおいて,No.5槽DO:0.10~0.18 mg/Lであった。センサーの仕様書により測定値の最大誤差を算出したところ,中水温期におけるNH4-N最適設定での測定誤差は,測定値の±5 %に±0.2 mg/Lを加え±0.45 mg/Lとなった。この値は図7における最適範囲において十分許容されると判断される。次にDO計についても検討した。NH4-N最適設定値5 mg/Lに相当するDOは0.13 mg/Lであり,DO計の測定誤差は測定レンジ(20 mg/L)の±1 %であることから0.13±0.2 mg/Lとなる。図11にてこのDO範囲をNH4-N設定値へ読み替えると,誤差範囲は2.5~8 mg/L以上となる。このように,アンモニア計と同様の制御をDO計で行うことは誤差範囲が広いため適用が困難であり,アンモニア計による空気量制御が優位であると考えられる。
なお,実施設では,DO制御系と比較してアンモニア計による制御系の空気量変動が大きくなっていた。この要因として,アンモニア計による空気量制御は,硝化による生物処理を経ているため,DOと比較して空気量がNH4-Nに反映するまでの時間を要することや,日々の水質状況により空気量がNH4-Nに反映するまでの遅れ時間が安定しにくいことが挙げられる。今後の課題として,空気量の変動を抑制できるように制御パラメータの調整が挙げられる。
図7 NH<sub>4</sub>-N設定値とNo.8槽の無機態窒素
水温 ℃ |
MLSS mg/L |
No.5槽 NH4-N |
No.8槽 NH4-N+NO3-N 計算結果 mg/L |
||
設定値 mg/L |
最適値 mg/L |
||||
高水温期 | 25.5 | 1800 | 2~8 | 4 | 4.9 |
中水温期 | 22 | 2000 | 2~8 | 5 | 6.8 |
低水温期 | 18 | 2300 | 2~8 | 6 | 8.1 |
図8 高水温期におけるDOと無機態窒素の挙動
図9 中水温期におけるDOと無機態窒素の挙動
図10 低水温期におけるDOと無機態窒素の挙動
図11 No.5槽におけるNH<sub>4</sub>-N設定値とDOの関係
各処理フローについてNH4-N設定値ごとのNo.8槽の水質,各槽のKLaの合計を図12に示す。
好気槽を2槽とした現状の処理フロー1から,好気槽を3槽に増やした処理フロー2としても,No.8槽のNH4-N,NH4-N+NO3-Nともにほとんど変わらなかった。一方,内生脱窒槽を2槽から3槽に増やした処理フロー3では,NH4-N設定値5 mg/Lが最適値であり,NH4-N+NO3-Nは7.2 mg/Lに減少した。無酸素槽での滞留時間が増え,内生脱窒が進んだためと考えられる。
また,処理フローの違いによるKLaの合計に差はほとんど見られなかった(表7)。
図12 処理フローの変更による無機態窒素のシミュレーション結果<sup>20)</sup>
水温 ℃ |
MLSS mg/L |
No.5槽 NH4-N |
No.8槽 NH4-N+NO3-N 計算結果 mg/L |
KLa合計 1/d |
||
設定値 mg/L |
最適値 mg/L |
|||||
処理 フロー1 |
18 | 2300 | 2~8 | 6 | 8.1 | 238 |
処理 フロー2 |
18 | 2300 | 2~8 | 6 | 7.8 | 239 |
処理 フロー3 |
18 | 2300 | 2~8 | 5 | 7.2 | 240 |
2014年及び2015年度の最終沈澱池流出水のNH4-N+NO3-Nを図13に示す。処理フロー1から処理フロー2(無酸素槽を2槽から3槽)に変更したあと,NH4-N+NO3-Nは増加した期間もあったが,10月以降は平均1.0 mg/Lの減少であった。朝のスポット採水の分析と平均流入水質を用いたシミュレーション結果を単純比較することはできないが,水温が低い時期ほど処理フロー2が有利であることが確認されたと考えられる。
図13 処理フローの変更による無機態窒素の実測値
各務原浄化センターにおける実測調査結果をもとに,嫌気-硝化内生脱窒法におけるアンモニア計を用いた空気量制御について,活性汚泥モデルによるシミュレーションでの最適条件の検討を行った。結果を以下にまとめる。
[水温条件によるNH4-N最適設定値]
No.8槽NH4-N+NO3-Nを最小とするNo.5槽NH4-Nの最適設定値が存在し,高水温期:4 mg/L,中水温期:5 mg/L,低水温期:6 mg/Lであった。
各水温条件とも,No.4槽とNo.5槽にてNH4-N+NO3-Nが減少した。これは,No.4槽とNo.5槽のDOが0.5 mg/L以下と低く,硝化と脱窒が同時進行したためと考えられる。
[DO計とアンモニア計の比較]
NH4-N最適設定値付近におけるNo.5槽DOは0.1~0.3 mg/Lと低い値であった。DO計で同様の制御を行うことは誤差範囲が広く適用が困難であり,アンモニア計による空気量制御が優位であると考えられる。
[低水温期における処理フロー]
内生脱窒槽を2槽から3槽に増やした処理フローで,NH4-N最適設定値は5 mg/Lとなり,NH44-N+NO3-Nは7.2 mg/Lに減少した。処理フローの違いによるKLaの合計に差は見られなかった。
実施設において,無酸素槽を2槽から3槽に増やした結果,No.8槽NH4-N+NO3-Nは10月以降,平均1.0 mg/L減少した。
本調査にあたっては公益財団法人 岐阜県浄水事業公社の関係者に多大なご協力を得て実施した。ここに感謝の意を表する。
1) 地球温暖化対策の推進に関する法律施行令(平成11年4月7日政令第143号).
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10) 日本下水道事業団,活性汚泥モデルの実務利用の技術評価に関する報告書(2006).
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12) 長塚洋行,遠藤和広,岡村智則:アンモニア+DO制御システムの開発,環境システム計測制御学会誌,Vol.17,No.2/3,pp.31-38(2012).
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17) 蒲池一将,本間康弘,鈴村悟:アンモニアセンサーを使用した空気量制御運転の活性汚泥モデルによる最適化,環境システム計測制御学会誌,Vol.20,No.2/3,pp.3-10(2015).
18) Mamais. D., D. Jenkins and P. Pitt: A rapid physi-cal-chemical method for the determination of readily biological soluble COD in municipal waste-water. Water Res., Vol.27, No.1 pp.195-197 (1993).
19) 蒲池一将,本間康弘,鈴村悟,小林勝朗,坪内功資:硝化内生脱窒法の適用事例と活性汚泥モデルによる運転条件の検討,第51回下水道研究発表会講演集,pp.874-876(2014).
20) 蒲池一将,本間康弘,鈴村悟:硝化内生脱窒法におけるアンモニアセンサーを用いた硝化制御運転の最適化,環境システム計測制御学会誌,Vol.21,No.2/3,pp.13-17(2016).
「EICA 20巻 2/3号 2015年」と「EICA 21巻 2/3 2016年」に掲載した内容を一部加筆・修正して転載した。
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