御法川 学
法政大学 理工学部 機械工学科 教授
エバラ時報への寄稿は,実はこれが3度目である。過去に2回,エバラ時報に寄稿したことがある。いつだったかと思い,自身の業績書というやつを見てみたら,1997年4月と7月に,流体騒音のことで書いていた。実に24年ぶりの寄稿である。まさか3度目が巻頭言になるとは思わなかった。私は大学院を修了して,当時の荏原総合研究所に入社した。他にもそそられる会社はあったが,指導教授が荏原製作所をお辞めになって大学に来られて最初の院生だったので,半ば無理矢理に押し込まれた。結局,6年しか在籍せず,一度の異動も経験することなく,母校に出戻り,気が付けば四半世紀近くが過ぎようとしている。そして幸か不幸か,これまで一貫して,流体騒音,ファン騒音の分野の研究を続けさせていただいている。未だに会社時代の偉大な先輩方や同期と一緒に仕事をさせていただき,たった6年間の会社勤めの間に体得した僅かな社会経験とスキルが役に立っている。今回このような光栄至極の機会もいただき,私は今後も荏原製作所に足を向けて眠れそうもない。
繰り返しになるが,私の研究テーマは,機械から発生する流体騒音の低減である。ファンやポンプ,圧縮機の羽根車が流体をかき回して生じる騒音や,自動車,鉄道,航空機が高速で空気をかけ抜けていくときに生じる騒音,主に風切り音という類の騒音である。私が卒業研究で遠心ファンの空力騒音という分野に出会ってかれこれ30年,騒音予測のシミュレーションや音源の可視化を含む騒音計測の技術は多少?進歩したが,実は静音化の手法はほとんど進化しておらず,会社の方々が時折相談に来られるお悩み事も30年間ほとんど変わらない。なぜだろうか。それは音を発生する機械そのものが,原理的にほとんど進化していないからである。水や空気にエネルギーを与えると,僅かにエネルギーがその器からこぼれおち,その一部が騒音になると考えたら良い。悪いことに,製品をより小型化・高速化・軽量化(低コスト化)すると,騒音は大きくなる傾向にある。そして,運良く製品が静かになったとしても,その騒音に隠れていた別の騒音が聞こえてくる(音のマスキング効果という)。さらには同じ騒音レベルでも心理的な音の大きさは異なる…つまり騒音はまったく厄介なのである。いっぽうで,心地良いとされる自然の音はほとんどが流体騒音である。潮騒,せせらぎ,風の音など…。私は在職中に流体機械の騒音に自然音の要素を取り入れたらどうなるのか,という研究をさせていただいたことがある。当時は荏原製作所の汎用ポンプがMS型からHzfree型に変わる頃で,騒音の音質もだいぶ変わったことに触発された研究だったのだが,当然というか,製品には応用できなかった。しかし,昨今の自動車は,余分な騒音を打ち消して心地良い疑似音を付加するとか,最新のEVに至っては加速音を著名な作曲家が作っていたりして,機械の作動音は不要どころか製品の付加価値になっている。ポストコロナの時代,環境インフラは益々重要になってくると思われ,グローバルな気候変動に耐えうる社会も構築していかないといけない。まさに荏原製作所の本領発揮である。荏原のインフラが活躍する街には心地良い音空間がある…そんな「荏原の音」がブランドになる日が来るのであろうか。そんなことを考えながら,低騒音設計に腐心する日々である。
藤沢工場ものづくり50年の歴史
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100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
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