森 健一* Kenichi MORI
小野 文志** Bunshi ONO
*
Ebara Vietnam Pump Company Limited
**
風水力機械カンパニー 事業開発統括部 製品企画課
2017年に完工したベトナムのダナン市水道公社(DAWACO)向けに納入したポンプ・施設及びプロジェクトについて紹介する。本件は,日本政府が推進する二国間クレジット制度(JCM)に基づくプロジェクトである。納入したポンプは,荏原製作所が高効率化に特化して開発した当時の最新モデルであり,ベトナムではじめての納入事例となった。経済成長著しいベトナムにおいて,環境への配慮は重要な課題と認識されつつある。既存ポンプを高効率ポンプCWX型に更新し,温室効果ガス(GHG)排出削減に貢献するという本プロジェクトの目的とも一致した。実施にあたっては荏原ベトナム(EVPC)の特徴であるプロジェクト部門,設計部門,生産工場を有する一気通貫の体制により,EVPCを中心としてすべての実務を迅速に進めた。
This paper introduces the pumps, facilities and projects we delivered for the Da Nang Water Supply Joint Stock Company (DAWACO) in Vietnam, which were completed in 2017. This project is based on the Joint Crediting Mechanism (JCM) promoted by the government of Japan. The pumps delivered were, at the time, the latest model developed by Ebara Corporation specifically for high efficiency and were the first delivery of such pumps to Vietnam. In Vietnam, which is experiencing rapid economic growth, environmental protection is being recognized as an important issue. This recognition inspired the project's objective of replacing the existing pumps with high-efficiency pumps model CWX to help reduce greenhouse gas emissions. In implementing the project, Ebara Vietnam Pump Company Limited (EVPC) was able to take the lead in expediting all practical work, thanks to its characteristic system of locating a project department, a design department, and a production plant all in one place.
Keywords: Vietnam Da Nang City, Da Nang water supply joint stock company, Ebara Vietnam Pump Company Limited, Joint Crediting Mechanism, Distribution Pump, Intake Pump, CO2 emission factor, Greenhouse Gas
ベトナム第4の都市であるダナン市は,ベトナムの5つの中央直轄市の1つである。また,図1に示すようにインドシナ半島のミャンマー,タイ,ラオスを繋ぐ東西経済回廊の東端となるベトナムの都市でもあり,中南部地域の経済の中心として注目されている。同市は,面積1 283 km2,人口1 134 310名(2019年4月1日ダナン市統計局公表)を有し,主要産業の一つである観光業の活性化にもつなげるため環境配慮型のまちづくりを進めている。経済発展に伴う産業集積や,急速な人口増加,及び観光開発の拡大に伴い,環境への配慮の重要性が認識されつつある。
ベトナムは,目覚しい経済成長を遂げており(コロナ禍前の経済成長率で6 〜 7 %/年),エネルギー消費量も増大している。電力料金が約10 円/kWh 程度と,物価水準からも高価であり,エネルギーの高効率化の重要性が増している。
図1 東西経済回廊とダナン市
日本政府は,先進的な低炭素技術,インフラ及び製品の提供を通じて,海外における温室効果ガス(GHG)排出抑制等への貢献を定量的に評価し,日本の削減目標の達成に活用する二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism:JCM)※1を推進している。
ベトナムと日本の技術協力として,ダナン市と横浜市が,2013年に「持続可能な都市発展に向けた技術協力に関する覚書」を締結し,都市間連携による各種都市課題の解決に向けた取組みを進めてきた。2015年にはダナン市と横浜市の都市間連携の枠組みのもとで,「アジアの低炭素社会実現のためのJCM案件形成可能性調査事業委託業務」を実施した。この調査事業がここで紹介するプロジェクトのきっかけとなった。
※1
二国間クレジット制度(JCM)資金支援事業のうち設備補助事業:環境省が実施する補助事業。優れた低炭素技術等を活用し,途上国における温室効果ガス排出量を削減する事業を実施し,測定・報告・検証(MRV)を行う。これにより算出された排出削減量を,二国間クレジット制度により我が国の排出削減量として計上することを目指して,事業者(国際コンソーシアム)に対し初期投資費用の1/2を上限として設備補助を行うもの。
荏原ベトナム(Ebara Vietnam Pump Company Limited 以下,EVPC)は,1995年ベトナム北部ハイズン省に荏原製作所(以下,荏原)と現地ポンプメーカとの合弁会社として設立し,2011年には荏原の100%出資子会社となった。2016年には,同省ライカック工業団地に鋳造設備・製缶設備を備えた中大型ポンプの製造工場を新設した。EVPCにはポンプ製造工場に加えて,国内主要販売拠点であるEVPCハノイ支店がある。ハノイ支店には営業部門だけでなく,システムエンジニアリング部門を有し,ポンプ機場全体の計画・設計にも対応している。
EVPCの営業部門は,2016年に荏原で新たに開発した高効率ポンプCWX型の発売を契機に,拡販活動としてダナン市水道公社(以下,DAWACO)向けに新型ポンプCWX型を紹介していた。その一方で,EVPCのシステムエンジニアリング部門は,前述の「アジアの低炭素社会実現のためのJCM案件形成可能性調査事業委託業務」に協力し,日本調査チームとともに現地調査及び技術検討を進めていた。
この調査結果を受けて,横浜ウォーター㈱※2は,DAWACOが所管するカウドゥ(Cau Do)浄水場(図2,図3)の高効率ポンプ導入に向けて本格的な事業化検討に着手した。2016年に横浜ウォーターとDAWACOは国際コンソーシアムを結成し(図4),環境省のJCM設備補助事業『ダナン市水道公社への高効率ポンプの導入』プロジェクトを申請。同プロジェクトの採択ののちに,2017年に竣工した。以下,本プロジェクトにおけるEVPCの取り組みを紹介する。
※2
図2 カウドゥ(Cau Do)浄水場
図3 カウドゥ(Cau Do)浄水場外観
図4 ダナン市水道公社への高効率ポンプの導入プロジェクトのスキーム
本プロジェクト『ダナン市水道公社への高効率ポンプの導入』は,正式名を「Replace 09 units of pump for the Cau DO water plant with high efficiency water pumps (the JCM model project in Da Nang)」と称する。プロジェクトでは,DAWACOが所有する水処理プラントであるカウドゥ(Cau Do)浄水場の取水と配水の2つのポンプ設備において,既存のポンプを高効率のものに更新し,温室効果ガス(GHG)排出削減に貢献することを目的としている。
本プロジェクトの主要機器である取水ポンプ,配水ポンプはそれぞれ以下の通りである。なお,取水ポンプが設置されているステーション(エリア)をLevel-1,配水ポンプが設置されているステーション(エリア)をLevel-2と呼んでいる。
取水ポンプ(Level-1)450×350 CWX型 3台
配水ポンプ(Level-2)500×350 CWX型 6台
カウドゥ(Cau Do)浄水場設備全体における構成および測定に関するフロー図を図5に示す。本事業は,JCMのスキームにより更新の効果をCO2排出量の削減効果を定量化するため,設備引き渡しが完了した2017年8月30日以降2035年まで運転状況を観測することを予定している。このため,流量,圧力,消費電力のデータを収集するシステムとしている。
図5 カウドゥ(Cau Do)浄水場のデータ収集構成図
ポンプ更新後の消費電力およびCO2排出量の削減効果は以下のように計画した。
年間CO2削減量748[tCO2/year]
= (Reference CO2 Emissions)-(Project CO2 Emissions)
= ((Reference Power Consumption)-(Project Power Consumption))[MWh/year]×Emission Factor[tCO2/year]
設備別の削減量は,以下の通りである。
[取水ポンプステーション Level-1]
104[tCO2/year] = (994.5-881.4)[MWh/year]× 0.919[tCO2/MWh]
[配水ポンプステーション Level-2]
644[tCO2/year] = (5 941.9-5 241.3)[MWh/year]× 0.919[tCO2/MWh]
高効率ポンプの導入効果を把握するために,既設設備に関する調査を実施した。Level-1,Level-2の各ステーションの調査結果を以下に示す。
1)Level-1 取水ポンプステーション
ポンプ設置台数:3台(通常並列2台運転)
流量:1 000 m3/h(48 000 m3/day 2台)
全揚程:19 m
定格回転速度:990 rpm
ポンプ定格出力:110 kW
ポンプ2台運転時の効率:50.5 %
取水ポンプステーションでは,既設機器に関する詳細の技術資料がなかったため,機器表示および運転記録によって把握した。機器は老朽化が進んでおり,流量に対する消費電力は0.133 kWh/m3であった。
EVPCでは上記の調査に加え,更新計画を行うため以下の現地調査を実施した。
・取水側水位レベル
・配管改修計画
・配管形状からプロセスの配管抵抗を調査
・実際の運転点の特定によるポンプ設備計画
本水処理設備流域では河川の水位変動が乾期と雨期との間で数メートル程度有るため,年間通して安定した運転ができる計画水位の設定を行う必要があった。また,実揚程の変化に伴う運転点の変動範囲内にて最大のポンプ効率が発揮できるようポンプ運転点の設定を計画した。さらに,ポンプ設備の更新に伴い,主配管設備の取り合いなどの変更を行うことから,ポンプ設備接続部分付近の主要配管の改修も計画した。
2)Level-2 配水ポンプステーション
ポンプ設置台数:6台
流量:2 400 m3/h(170 000 m3/day 並列5台運転)
全揚程:42 m
NPSH Req:12 m
定格回転速度:1 470 rpm
ポンプ定格出力:450 kW
ポンプ4台にインバータを搭載(48 Hzにて運転)
既設ポンプは2008年に設置されたもので,運転状況は異常振動および騒音を伴い,摺動部の摩耗も激しい状態であった。定格全揚程における消費電力は0.188 kWh/m3であった。
図6は一日の中での運転点の推移を示し,各時刻での圧力と流量を表している。図7は複数台による運転パターン毎の運転点を示す。これらのデータから,運転最適化に対しては時間帯または水需要の変動に合わせた柔軟な運転パターンを実現する必要がある。
図6 Level-2での一日あたりの運転記録
図7 Level-2での各運転パターンにおける運転記録
既設ポンプ設備における各消費電力に関して測定結果に基づいてまとめると表1及び表2のようになる。
運転台数(台) | 消費電力(kWh/m3) | 機器効率(%) |
2 | 0.133 | 50.5 |
運転台数(台/台)※3 | 消費電力(kWh/m3) | 機器効率(%) |
5/3 | 0.178~0.186 | 61.4 |
5/4 | 0.176 | 64.3 |
4/2 | 0.151 | 70.1 |
4/4 | 0.152 | 66 |
3/3 | 0.119 | 62.5 |
3/2 | 0.158 | 64.6 |
既設の設備調査結果に基づき,運転点の再計画を行った。計画した設備改修の概要を以下に示す。
ポンプ設置台数:3台(通常並列2台運転)
流量:1 200 m3/h(57 600 m3/day 2台)
全揚程:12 m
定格回転数:990 rpm
ポンプ定格出力:55 kW
ポンプ2台運転時の効率:86 %
新設ポンプ:450×350 CWX型 EVPC製
今回の改修によって設備能力として対応する流量を約20 %程度増強した上で機器効率から評価すると消費電力として,表1に示した既設設備に対して約20 %程度低下させることができた。
改修後のポンプ計画性能カーブを図8に示す。ポンプ改修後は効率約86 %での最適な運転点になるように計画した。なお,既設ポンプの運転点も図8の「♢」で示す。この運転点ではポンプ効率が約65 %と非効率な運転が行われていた。計画時に検討したポンプは荏原にて新規に開発された高効率ポンプCWX型を適用した。従来のEVPCモデルに対して3~5 %程度の効率の優位性があり,上述した運転計画と併せ大幅な消費電力の削減が見込まれる。
図8 改修後Level-1のポンプ性能カーブ
ポンプ設置台数:6台(1台予備含む)
流量:2 400 m3/h(230 000 m3/day 5台運転時)
全揚程:52 m
定格回転数:990 rpm
ポンプ定格出力:420 kW
ポンプ2台運転時の効率:89 %
新設ポンプ:500×350 CWDM型 EVPC製
配水ポンプ設備においても同様の検討を行い,表2で示した既設運転状況に対して15 %以上の消費電力を低下させることができた。前述のように運転点はその需要により台数変化およびインバータによる回転数制御による運転が想定される。一例として5台並列運転時の運転点計画を図9に示す。
図9 Level-2 並列運転時の運転計画
ポンプは取水ステーションのLevel-1同様,配水ステーションのLevel-2においても新規開発の高効率モデルCW型を採用している。Level-2の改修後ポンプ計画性能カーブを図10に示す。
図10 改修後Level-1のポンプ性能カーブ
表3,表4にLevel-1 取水ポンプステーションとLevel-2 配水ポンプステーションの改修前後の設備外観と性能比較を示す。Level-1では年間の電力消費量は228 665[kWh/year],Level-2では,2 019 701[kWh/year]を削減することができた。
表3 Level-1 取水ポンプステーションの改修前後の比較表
表4 Level-2 配水ポンプステーションの改修前後の比較表
本プロジェクトでは,設備納入後にも最適な運転が継続するよう需要に合わせた最適運転方法の検討・提案をしている。
現地調査で確認した配水ポンプ設備に関する一日の中での需要の変化は,2015年と2017年では図15,図16に示すように変化している。2015年に比べて改修設備導入時の需要は比較的安定したものとして計画されているものの,一日の運転の中で最小42 mから最大52 m程度の間で変化していることが分かる。
図15 2015年時の一日における配水ポンプ設備需要
図16 2017年改修後の一日における配水ポンプ設備需要
今回の設備納入ではこの運転計画を再現させるべく以下の運転計画を推奨した。2017年の運転計画(図16)に示される需要に併せて,高い効率での運転とするため,それぞれCase-1~3の運転パターンを計画した。
Case-1 配水ステーション運転点(1)
運転方式:100 %回転速度による5台運転
ポンプ運転点:全揚程:52 m,流量:12 000 m3/h
運転点計画について図17に示す。
図17 配水ポンプステーションの運転点計画(1)
Case-2 配水ステーション運転点(2)
運転方式:93 %回転速度による4台運転
ポンプ運転点:全揚程:42m,流量:10 000 m3/h
運転点を図18に示す。
図18 配水ポンプステーションの運転点計画(2)
Case-3 配水ステーション運転点(3)
運転方式:100 %回転速度による4台運転
ポンプ運転点:全揚程:47 m,流量:11 000 m3/h
運転点計画を図19に示す。
図19 配水ポンプステーションの運転点計画(3)
前述のように本設備は,その消費電力低減効果をモニタリングするため,現在も測定が続けられている。検証結果がベトナム国内の水道公社および関連官庁および日本のJCMスキーム関係者に認識され,更なる機会が創出されることに期待し,今後ともベトナムでの活動を続けていく。
本プロジェクトで納入した高効率型のCW型ポンプ(両吸い込み横型ポンプ)は,2015年に基本設計を完了し2016年より市場に投入されている。ポンプ外観を図20に示す。
※ 当社HP 製品紹介 CW/CC/CN 型 両吸込み単段渦巻ポンプ https://www.ebara.co.jp/products/details/CW_CC_CN.html 図20 CW/CC/CN型 両吸込み単段渦巻ポンプ
本CW型は開発当初からEVPCで製造することを想定し,標準化には荏原製作所富津工場開発部門とEVPC 技術部門の協力の下で行われた。現在は日本でも納入実績が増えつつあり,その多くをEVPCで製造している。
本プロジェクトでは,JCM事業を推進する日本側関係者と設備所有者であるDAWACOに対して,計画内容の意義について共有し,その効果について理解を得る必要があった。今回,高効率ポンプCWX型に更新したことにより温室効果ガス(GHG)排出量や消費エネルギーなどの削減に貢献することができた。当社グループが2030年に向けて解決・改善に取り組む5つの重要課題の一つである「1.持続可能な社会づくりへの貢献」を示す良い事例となった。また,現地での調査から施工,主要ポンプの製造まで,EVPCの総力を結集し実現したプロジェクトである。1990年代後半にベトナムの地に拠点を置き,長きにわたりベトナムのスタッフを育成した荏原製作所風水力事業各部門のスタッフの尽力があった。
本プロジェクトにおいてご指導・ご協力をいただいた横浜市,横浜ウォーター,関係各位に深く感謝の意を表する。
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム