入江 智芳* Tomoyoshi IRIE
八鍬 浩* Hiroshi YAKUWA
境 昌宏** Masahiro SAKAI
*
技術・研究開発・知的財産統括部
**
室蘭工業大学
アンモニア雰囲気中での純銅管の応力腐食割れを調べるために,C-リング試験片を用いた暴露試験を行った。その結果,1%と3%のアンモニア水から生じた気相中において,リン脱酸銅の1/2H材(H材より加工度が低い加工硬化材),O材(焼きなまし材)に粒界腐食あるいは粒界割れが発生した。一方,無酸素銅およびリン脱酸銅のH材(加工硬化材)には粒界腐食が発生しなかった。アンモニア水の濃度を0.1%とした気相中ではリン脱酸銅の1/2H材に粒界腐食が見られなくなった。さらに,リン脱酸銅管の応力腐食割れは,暴露環境の湿度や酸素濃度,あるいは試料に負荷する応力を低減することで抑制されることが分かった。
Exposure tests of the C-ring specimen in ammoniacal environments were carried out to investigate stress corrosion cracking of a pure copper tube. As a result, intergranular corrosion or intergranular cracking was occurring on the surface of phosphorous deoxidized 1/2H-tempered and O-tempered copper tubes under gas-phase ammonia derived from 1 % and 3 % ammonia water, while intergranular corrosion was not observed in the oxygen-free copper and phosphorous deoxidized H-tempered copper tubes. Tempers of these tubes were H, 1/2H and O defined in JIS H0500. It was found that intergranular corrosion did not occur on the surface of phosphorous deoxidized 1/2H copper tubes under gas-phase ammonia derived from 0.1 % ammonia water. Furthermore, the SCC of the phosphorous deoxidized copper tube was suppressed by maintaining a low humidity or a low oxygen environment, and by reducing the stress which was applied to the specimens.
Keywords: Stress corrosion cracking, Pure copper, Phosphorous deoxidized copper, Oxygen-free copper, Ammonia, C-ring test, Exposure test, Crystal grain, Intergranular cracking
応力腐食割れ(以下,SCC)とは,合金系金属が許容応力内の静的な引張応力を受けた状態で,特定の腐食環境中にさらされるときに割れを生ずる現象である1)。このSCCはアンモニア雰囲気中に暴露されたリン脱酸銅に発生すること,材料中のリン濃度が0.02%以下ではリン濃度の減少とともにSCCの感受性が低下することが報告されている2)。
地域冷暖房やビル空調用の熱源機として広く用いられている吸収式冷凍機の伝熱管には,リン脱酸銅管が採用されている。リン脱酸銅管は,リン濃度が低いJIS H3300 C1201(P:0.004%以上0.015%未満,以下,低リン材)とリン濃度が高いJIS H3300 C1220(P:0.015%以上0.040%未満,以下,高リン材)に分類されるが,吸収式冷凍機の伝熱管には低リン材が使用されている。低リン材にはSCCの感受性が低いという利点があるが,高リン材と比較して市場の流通量が少ない。今後,吸収式冷凍機の製造リードタイムの削減やグローバル調達などを進めるにあたり,高リン材の使用が望まれる。
そこで著者らは,試料に定ひずみを加えることで応力を負荷できるC-リング試験片をアンモニア雰囲気中に暴露することで,リン脱酸銅管のSCC発生状況を調査したてきた。本報では,これまで報告してきた内容3)-5)に新たに得られた実験結果を加え,リン脱酸銅管のSCC発生に与える材料因子(リン濃度,質別,負荷応力)と環境因子(アンモニア濃度,湿度,酸素濃度)の影響についてまとめた結果を報告する。
銅管の材質は高リン材(HP),低リン材(LP)およびリンを含まないJIS H3300 C1020(P:0%,以下,無酸素銅,OF)の3種類とし,それぞれ加工度の異なる質別H材(加工硬化材,引張強さ415~447MPa),1/2H材(加工硬化材,引張強さ248~260MPa),O材(焼きなまし材,引張強さ234~240MPa)の3種類を用いた。
暴露試験に用いる試料は,長さ20mmに切断した呼び径15A(基準外径15.88mm,肉厚0.8mm)の銅管をASTM G386
)に準拠したC-リング試験片へ加工したものを用いた。図1にC-リング試験片の概略図を示す。
図1 C-リング試験片概略図
試験片に応力を負荷する方法を図2に示す。C-リング試験片ではボルト・ナットを締めることで図中の試料外周部に応力を負荷することができ,*部に最も大きな引張応力が負荷される。試験片に負荷される最大応力は,ボルト・ナットを締める前の銅管の直径からボルト・ナットを締め付けた後の直径を引いた値に対する*の位置における円周方向応力(円周方向のひずみと管軸方向のひずみの測定結果を用いて算出)との相関関係から求めた。
図2 応力負荷方法概略図
密閉容器内に静置する試験水は,イオン交換水に23 %アンモニア水を所定量溶解することで作製した。図3にC-リング試験片を用いたアンモニア雰囲気中での暴露試験装置の概略を示す。
試験水を15mL注いだ試験管およびボルト・ナットを締め付けることで応力を負荷したC-リング試験片2個を容量500 mLのポリプロピレン製容器内部に静置後,容器のふたを締め,室温(23℃)下で放置し,試験水から揮発するアンモニア雰囲気に暴露した。所定の時間が経過した後に試料を引き上げた。その後,試料はイオン交換水で洗浄,自然乾燥した後,ボルト・ナットを取り外した。さらに,試料を希硫酸中で超音波洗浄し腐食生成物を除去した後,エポキシ樹脂に埋め込んだ。エポキシ樹脂が硬化した後,研磨した試料断面を光学顕微鏡で観察した。
容器内の湿度を低減する場合には,容器内に乾燥剤を入れた。乾燥剤には,酸化カルシウム1gを用い,これを不織布フィルターに入れて図3に示す密閉容器の底に静置した。試験期間中,定期的に容器内の相対湿度(%RH)を温湿度計で測定した。試験期間中に乾燥剤の吸湿能力が低下した場合は,適宜乾燥剤を入れ替え,容器内湿度が極力90~95%RHを維持するよう留意した。比較試験として,容器内に乾燥剤を入れない試験も実施した。比較試験の容器内湿度はほぼ100%RHで推移した。
図3 暴露試験概要図
図4に低酸素濃度環境下でのC-リング試験概略図を示す。基本構成は図3と同じであるが,試験容器内の空気を窒素置換することで低酸素環境を実現した。容器のふたに吸気口と排気口を開け,吸気口から高純度窒素(99.999%N2)を注入することで,容器内空気を窒素に置換した。窒素脱気中は,排気口に取り付けたチューブ先端を水の入ったビーカーに付けておき,気泡が出続けていることを確認した。容器内の空気が窒素で置換された後,吸気口と排気口に取り付けたチューブをローラークランプによって閉じることで容器を密封状態とし,低酸素状態を維持した。
図4 低酸素濃度環境下試験概要図
材料中に含まれるリン濃度と材料の質別がSCCの発生に与える影響を調査するために,高リン材,低リン材および無酸素銅の3種類を試料とし,各試料につき質別H材,1/2H材,O材を用いることで計9種類のC-リング試験片を実験に供した。試験片に負荷する応力は,質別H材では約300MPa,1/2H材では約200MPa,O材では約75MPaとし,負荷応力が全て弾性域内に収まるように設定した。暴露環境は試験水として1%と3%のアンモニア水の2種類を用い,暴露期間は3週間とした。
図5に1%アンモニア水を用いて暴露を行った試料の断面観察結果を示す。図5およびこの後に示す図6に示す断面は,全て図2に示す*の箇所を観察したものである。高リンおよび低リン材では1/2HおよびO材表面に粒界腐食が,H材表面に軽微な肌荒れ状の腐食が観察された。一方,無酸素銅では,H,1/2H,O材いずれの質別においても軽微な肌荒れ状の腐食が発生するのみで粒界腐食は観察されなかった。
図5 1%アンモニア水の気相中に3週間暴露した各試料の断面顕微鏡写真 (負荷応力:H材=約300MPa,1/2H材=約200MPa,O材=約75MPa)
図6に3%アンモニア水での断面観察結果を示す。腐食の発生状況は,図5に示す1%アンモニア水の場合と同様であった。すなわち,高リンおよび低リンの1/2H,O材で粒界腐食が発生し,残りの条件では表面が肌荒れ状に腐食しているのみであった。図6の高リン・1/2H材(上段中)の断面は,深さ方向に明瞭な割れが発生している様子が確認できる。また,この割れは結晶粒界に沿って進展していることが分かる。このことから,今回の試験条件下で生じる純銅の応力腐食割れは粒界割れ(Intergranular Stress Corrosion Cracking; IGSCC)になることが判明した。
図6 3%アンモニア水の気相中に3週間暴露した各試料の断面顕微鏡写真 (負荷応力:H材=約300MPa,1/2H材=約200MPa,O材=約75MPa)
図5および図6に示す断面はいずれも,C-リング試験片において試験片外面に最大の引張応力がかかっている箇所を観察したものであるが,高リンおよび低リンの1/2H,O材で観察された粒界腐食はそれ以外の箇所にも発生していた。ただし,図5および図6に示す断面における粒界腐食は,ほかの箇所に発生した粒界腐食に比べて,管の肉厚方向への進展が顕著であった。よって,今回発生した粒界腐食は,応力が負荷されることにより管の肉厚方向へ進展し,これが応力腐食割れへと移行することが推察された。
図5および図6に示す断面観察結果より,リンを含有する高リン,低リン材では質別1/2HおよびO材で粒界腐食が発生していたのに対し,リンを含有しない無酸素銅ではすべての質別で粒界腐食が発生していないことが分かる。このことから,粒界腐食の発生には純銅中に含まれるリンが関与していることが示唆された。
一方,リンを含有している試料においても質別H材では粒界腐食の発生が確認されなかった。そこで各質別の結晶粒の状態を調べるため,エッチング処理を行った高リン材の顕微鏡観察を行った。その結果を図7に示す。質別1/2H,O材では結晶粒径が約数十μmであるのに対し,H材では結晶粒が扁平し,粒径が約数μmと1/2H,O材に比べて小さいことが分かる。質別H材で粒界腐食が発生しなかった原因は,結晶粒が1/2H,O材に比べて微細化されていたためと思われる。佐藤ら7)も結晶粒径の増大とともにSCC破断にいたるまでの時間が短くなると報告している。本試験結果においても,結晶粒の大きさが粒界腐食およびSCC 感受性に影響を及ぼすことが明らかとなった。
図7 エッチング処理をした高リン材の顕微鏡写真
試料に負荷される応力がSCCの発生に与える影響を調査するために,試料に質別1/2Hの高リン材,低リン材を用い,試験片に負荷する応力を質別1/2H銅管の耐力240MPa以上(以下,高応力条件)と約70MPa(以下,低応力条件)とした2種類のC-リング試験片で3週間の暴露試験を行った。試験水のアンモニア濃度は1%と3%の2種類とした。図8に1%アンモニア水を用いた試験後試料の断面観察結果を示す。高応力,低応力いずれの条件においても,高リン材,低リン材ともに,軽微ではあるが試料表面全体に粒界腐食が確認された。しかし,いずれの試料においても粒界腐食の肉厚方向への進展は確認されなかった。
図8 1%アンモニア水の気相中に3週間暴露した質別1/2Hの試料の断面顕微鏡写真 (負荷応力:高応力条件=240MPa以上,低応力条件=約70MPa)
図9に3%アンモニア水を用いた試験後試料の断面観察結果を示す。いずれの応力条件および試料においても,表面付近に明瞭な粒界腐食が発生している。なかでも高応力,高リン材の場合に管表面から肉厚方向に進展した割れが発生しており,SCCが発生したものと判断される。低応力条件では,肉厚方向への割れの進展は見られず,表面付近が激しく粒界腐食している様子が確認される。特に高リン材では粒界腐食により,表面近傍の結晶粒の一部が脱落している様子も確認された。
図9 3%アンモニア水の気相中に3週間暴露した質別1/2Hの試料の断面顕微鏡写真 (負荷応力:高応力条件=240MPa以上,低応力条件=約70MPa)
今回の実験において,SCCは3%アンモニア水を用い,応力条件を高応力とした質別1/2Hの高リン材にのみ発生した。同じ雰囲気中に質別1/2Hの高リン材を暴露しても低応力条件ではSCCは発生しなかったことから,SCCの発生には一定値以上の負荷応力が必要であることが分かった。また,耐力を越える応力を負荷することでもSCCが発生することが判明した。
腐食環境の湿度および酸素濃度がSCCの発生に与える影響を調査するために,容器内の湿度と酸素濃度を制御しない環境(以下,高湿度),容器内の湿度のみを下げた環境(以下,低湿度)および酸素濃度のみを下げた環境(以下,低酸素)での暴露試験を実施した。試料は質別1/2Hの高リン材とし,試験片には高応力条件で応力を負荷した。また,試験に用いるアンモニア水濃度は5%とした。暴露試験開始後,毎日定期的に試料表面の目視観察を行った。目視にて明らかなき裂が確認された場合は,その時点で試験を終了し,試験片を容器内から取り出した。き裂が確認されない場合は,1週間で試験を終了し,試料を容器から取り出した。
表1に高湿度,低湿度,低酸素の3条件での試験終了までの時間,試験終了時の試料外観,湿度,酸素濃度,および気相部アンモニア濃度を示す。高湿度条件では,試験開始約1時間後に試料表面は暗褐色に変色しはじめ,24時間後には暗褐色が濃くなり,試料表面に明瞭なき裂が確認された。低湿度では,試験開始約3時間後から褐色へと変色し,試験時間の増加とともに色が濃くなっていった。しかし,7日後の試料表面にもき裂が視認されなかったため,試験は7日間で終了した。低酸素条件では,高湿度のときよりも変色に長時間を要したが,低湿度のときよりは短時間で変色した。48時間後に試料表面にき裂を視認したため試験を終了した。試験終了時点での容器内湿度は高湿度および低酸素条件はいずれも100%RHであるのに対し,低湿度は96%RHと他の2条件に比べて低い値となった。酸素濃度は高湿度,低湿度条件いずれも約20%と通常の大気中酸素濃度と変わらないのに対し,低酸素は4.6%と低い値が維持されていることを確認した。気相部アンモニア濃度は,3条件いずれも約2 %で大差なかった。
表1 試験終了時の試料外観写真 (材質:高リン,質別:1/2H,負荷応力:高応力条件=240MPa以上)
図10に高湿度,低湿度,低酸素の3条件下での試験終了後の試料断面観察結果を示す。高湿度および低酸素条件下の試料には,管肉厚方向に進展する明瞭なき裂が存在した。またこれら2条件の試料表面には,軽微な粒界腐食も観察された。図10下段のき裂部拡大観察より,高湿度,低酸素条件いずれのき裂も結晶粒界に沿って進展しており,今回発生したき裂もIGSCCによるものと判別できる。
図10 5%アンモニア水の気相中(湿度と酸素濃度を制御)に暴露した試料の断面顕微鏡写真 (材質:高リン,質別:1/2H,負荷応力:高応力条件=240MPa以上)
一方,低湿度条件下の試料には,SCCによる割れはおろか粒界腐食も確認できなかった。図10より,今回実施した3条件では,高湿度および低酸素条件でSCCが発生することが分かった。ただし,高湿度条件では24時間で表面にき裂が確認されたのに対し,低酸素条件では48時間後にき裂が確認され,き裂発生までの時間は低酸素条件のほうが長くなった。表1より,酸素以外の環境因子である湿度およびアンモニア濃度は,高湿度と低酸素とではほぼ変わらないことから,き裂発生までの時間が延びたのは酸素濃度低減による効果と言える。
今回の実験結果より,容器内酸素濃度が4.6%に低減されるとSCCは発生するものの,発生までの時間が長くなることが示唆された。銅系材料のSCCに及ぼす酸素の影響については,黄銅の復水器管についての報告8)があり,そこには,復水したボイラ水中にNH3が含まれていてもO2濃度がきわめて低い場合はSCCを生じないとの記述がある。今回の材料は黄銅ではなく純銅であるが,酸素濃度低減によりSCC発生が遅れたことから,黄銅と同様に酸素低減はSCCを抑制する方向に作用するものと思われる。ただし,今回の低酸素条件下での酸素濃度4.6%では,最終的に図10に示すようにSCCが発生したことから,SCCが生じなくなる酸素濃度は,少なくとも4.6%未満であると言える。
低湿度条件では表面の変色が遅くなり,図10に示した通り,1週間経過した試料にも,割れや粒界腐食は観察されなかった。今回の実験で低湿度条件の試験終了時における湿度は96%RHであったが,暴露期間中に乾燥剤を適宜入れ替え容器内の湿度が極力90~95%RHを維持するよう留意したため,高湿度条件と比較すると湿度を約5~10%低減させたことになる。表1より,湿度以外の環境因子である酸素濃度や気相部アンモニア濃度は高湿度と低湿度でほぼ同じであることから,湿度低減にはSCC発生を抑制する効果があることが判明した。佐藤ら7)は相対湿度70,95,および98%に調整したアンモニア雰囲気中でのリン脱酸銅板のSCC試験を行っており,相対湿度が低下するにつれて,割れに至るまでの時間が長くなる結果を報告している。今回実施した試験方法は,佐藤らと異なりC-リング試験であるが,佐藤らの報告と同様,湿度低減はSCCを抑制する効果が大きいという結果が得られた。
図5と図8に示す断面観察結果より,1%アンモニア水を用いた環境で3週間暴露した試料には,材料,質別や応力負荷条件を変えてもSCCの発生は確認されなかった。暴露時間がSCCに与える影響を調査するため,同じ1%のアンモニア水を用いた雰囲気で8週間の暴露試験を実施した。試料には質別Hと1/2Hの高リン材,低リン材を用い,試料に負荷する応力は高応力条件とした。ここで,質別Hの高応力条件では,試料に質別H銅管の耐力390MPa以上の応力を負荷した。
8週間暴露した試料の断面観察結果を図11に示す。質別Hの高リン材と低リン材の試料表面には,軽微な肌荒れ状の腐食が見られた。これは図5に示した3週間暴露後の腐食状況と類似した腐食状態であった。これに対して,質別1/2Hの高リン材と低リン材の試料表面には粒界腐食が観察されたが,これも図5と図8に示した3週間暴露後の腐食状況と類似した腐食状態であった。
図11 1 %アンモニア水の気相中に8週間暴露した試料の断面顕微鏡写真 (負荷応力:H材高応力条件=390MPa以上,1/2H材高応力条件=240MPa以上)
ただし,質別1/2Hの高リン材については図12に示す通り,管肉厚方向へのき裂が観察された。このき裂の深さは,管の肉厚0.8 mmに対して約0.45 mmであった。1 %アンモニア水を用いた雰囲気への8週間の暴露で質別1/2Hの高リン材にSCCの発生が確認されたため,試料に質別Hと1/2Hの高リン材,低リン材を用い,試料に負荷する応力を高応力条件とし,0.1%のアンモニア水を用いた環境で24週間の暴露試験を実施した。図13に暴露後試料の断面観察結果を示す。質別によらず高リン材と低リン材の試料表面には軽微な肌荒れ状の腐食しか確認されず,質別1/2の高リン材と低リン材には,図11で確認された粒界腐食の発生は認められなかった。
図12 1%アンモニア水の気相中に8週間暴露した質別1/2H,高リン材試料の断面顕微鏡写真 (負荷応力:1/2H材高応力条件=240MPa以上)
図13 0.1 %アンモニア水の気相中に24週間暴露した試料の 断面顕微鏡写真 (負荷応力:H材高応力条件=390MPa 以上,1/2H材高応力条件=240MPa以上)
質別H材の高リン材と低リン材では,アンモニア水濃度が1%と3%の場合は,図5,図6,および図11に示した通り暴露後の表面に軽微な肌荒れ状の腐食のみ観察された。これと同様に,アンモニア水濃度が0.1%の場合,暴露期間を24週間にしても暴露後の表面には軽微な肌荒れ状の腐食しか確認されなかった。この結果より,0.1%未満のアンモニア水を用いた環境に質別H材の高リン材と低リン材を24週間以上暴露しても,材料表面の腐食は軽微な状態で留まることが推察される。
質別1/2Hの高リン材と低リン材では,アンモニア水濃度が1%と3%の場合には,図5,図6,図8,図9,図11,および図12に示した通り,暴露後の試料表面には粒界腐食やSCCの発生が確認された。一方,アンモニア水濃度が0.1%の場合は,暴露期間を24週間としても,暴露後の表面には質別H材と同様に粒界腐食は見られず,軽微な肌荒れ状の腐食しか確認されなかった。以上の結果から,0.1%未満のアンモニア水を用いた暴露環境で質別1/2H材の高リン材と低リン材を24週間以上暴露しても材料表面の腐食は軽微な肌荒れ状の状態で留まることが推察される。
吸収式冷凍機の伝熱管に高リン材を使用するためには,機内に注入する冷媒である水や吸収剤である臭化リチウム水溶液中のアンモニア濃度を低くする必要があることが分かった。特にアンモニア濃度を0.1%未満にすることで,応力腐食割れの発生を抑制することができると考えられる。
銅管の加工度は,粒界腐食やSCCの発生が見られた質別1/2H材や質別O材よりも,同じ暴露条件で肌荒れ状の腐食しか見られなかった質別H材を使用することが好ましい。また,同じ雰囲気中でも負荷応力が低いほどSCCの発生が抑制されたため,銅管の残留応力を低く抑えることも有効であることが分かった。
冷凍機の機内は飽和蒸気で満たされているため,SCCの発生を抑制するために湿度を100%RHよりも下げるという対策を取ることはできないが,通常,機内は真空に保持される(酸素は機外に放出される)ため,酸素濃度の低下によりSCCが発生しにくい環境であると言える。
1) 例えば,北村義治,鈴木紹夫:防食技術,第2版,地人書館(2009),p. 44.
2) 永田公二,佐藤史郎,住友軽金属技報,24(1983),p. 97-107.
3) M. Sakai, M. Kiya, T. Irie, H. Yakuwa, Zairyo-to-Kankyo, 65 (2016), p. 138-142.
4) M. Sakai, M. Kiya, T. Irie, H. Yakuwa, Zairyo-to-Kankyo, 65 (2016), p. 494-497.
5) M. Sakai, M. Kumagai, A. Osaka, T. Irie, H. Yakuwa, Zairyo-to-Kankyo, 67 (2018), p. 168-171.
6) ASTM G38, “Standard Practice for Making and Using C-Ring Stress-Corrosion Test Specimens”, (1995).
7) S. Sato and K. Nagata, Journal of the JCBRA, 17 (1978), p. 202.
8) H. H. Uhlig and R. W. Revie, Corrosion and Corrosion Control 3rd (Jpn.), Sangyotosho (1989), p. 346.
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム